武庫川女子大学(兵庫県西宮市)上甲子園キャンパスの甲子園会館で、1月から竣工以来初となる瓦の全面葺き替えが行われている。
甲子園会館は、1930年に旧甲子園ホテルとして竣工。フランク・ロイド・ライトの愛弟子である建築家・遠藤新が設計した、阪神間モダニズムを代表する名建築として広く知られている。戦争のためわずか14年で閉業し、1965年からは武庫川女子大学・建築学部の校舎として利用されている。
近年、外装部の傷みが目立つことから、2030年の100周年を前に「次の100年に受け継ぐ修復を」と大規模改修を決定。名建築を次代に受け継ぐ大プロジェクトとして取り組む。2025年に完了予定。
旧甲子園ホテルのオリジナル瓦は和風の緑釉 (りょくゆう)瓦 で、周囲の松林に溶け込む「織部 (おりべ) 色 」(暗緑色)が特徴。瓦の一片をひっかけて固定する桟木の下には、防水シートが敷かれているものの、近年の暴風雨で瓦が損傷、持ち上がるなどして雨漏り被害が発生していた。2007年には瓦約6000枚を新調し、一部葺き替えを行ったが、「経年変化した日華石の壁となじまず、名建築の雰囲気を損ねかねない」として中断。瓦業者の廃業などで同じ瓦を造ることが難しいこともあり、とん挫していた。今回の葺き替えでは、名建築の趣を壊さず強度を高めるため、状態の良いオリジナル瓦約1万枚と、新しい防災瓦を市松模様に組み合わせることで織部色を再現する。
葺き替えにあたり、建築学部の教員がオリジナル瓦の強度と安全性を確認。瓦の裏側の一角にステンレス製の板を取り付けてツメを作り、斜め両隣の瓦の角と組んで、吹き上がりを防止する。1月から、保管していた約6000枚を使用して東棟の屋根から葺き替えに着手。平瓦や隅棟瓦、軒瓦、棟飾りなどもいったん解体・撤去し、新しい防水シートと縦横の桟木を組んでから、瓦を葺く作業を開始する。2023年中に約2万5000枚の全瓦を葺き替える予定。
武庫川女子大学は、2006年に女子大初の建築学科を開設。2020年に建築学部となり、建築学科と景観建築学科が上甲子園キャンパスで学んでいる。建築学部の岡崎甚幸学部長は「甲子園会館の屋根瓦は学生の実習でも活用しており、葺き替えの工程を間近で見ることができるまたとない機会。名建築を継承するための教員の研究にもつながる」としている。
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