国立環境研究所(茨城県つくば市)エコチル調査コアセンター、長崎大学(長崎市)熱帯医学・グローバルヘルス研究科の研究グループは、「幼児期の室内空気汚染物質ばく露と精神神経発達との関連」について解析を行った。
同研究では、参加者約5000人を対象に、家庭訪問による環境測定の結果とASQ-3(精神神経発達指数)スコアとの関連を解析。1歳6か月時点と3歳時点での家庭の空気汚染物質の濃度と、子どもの発達との関連について調べた。
その結果、一つ一つの汚染物質の解析では、3歳時点でのキシレン(芳香族化合物の一つ)濃度が高いほどASQ-3スコアが低くなることがわかった。その他の物質においては、個別解析では影響はみられなかった。また、複数の室内空気汚染物質をまとめて解析した結果、3歳時点での室内汚染物質濃度が高いこととASQ-3スコアのうち粗大運動に関するスコアが低いことについて関連があることがわかった。主にベンゼン、トルエン、o-キシレン、エチルベンゼンなどが影響していた。長期的な影響の解析では、室内キシレン濃度(1歳6か月時と3歳時の幾何平均)が高いことと、ASQ-3スコアのうち粗大運動に関するスコアが低いことについて関連があった。
本研究におけるキシレン濃度は、中央値がm,p-キシレンが3.4 µg/m3(範囲0.2–210 µg/m3)、o-キシレンが1.2 µg/m3(範囲0.1–98 µg/m3)であり、ほとんどの場合、厚生労働省の定める室内濃度指針値200 µg/m3よりも低い値だった。その他の物質についても同様に、室内濃度が室内濃度指針値を超える例はほとんどなかった。この結果から、キシレンを含む、低濃度の室内汚染物質ばく露でも、子どもの発達に影響がある可能性が考えられるとする。
一方で、同研究の限界として、「1歳6か月時と3歳時点での室内汚染物質の測定は、それぞれ1週間という限定された期間における測定であること」、「母親の妊娠期間中の測定結果が得られていないこと」、「発達やその他の情報は自記式質問票によるものであること」、「キシレンなどの室内汚染物質の上昇に関与し、かつ、ASQ-3スコアの低下にも関与する要因については、エコチル調査(子どもの健康と環境に関する全国調査)で収集できた情報のみを用いており、解析に含められなかった要因がある可能性があること」を挙げている。そのため、複数の疫学調査によって、室内のキシレン濃度が高いことと発達スコアが低下することについて検証する必要があるとする。さらに、ASQ-3スコアの低下が、どのような社会的インパクトがあるかについても、今後更なる研究が必要だとする。
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