日本の住宅は欧米に比べて質が低いと言われきました。その状況が少しずつ変わってきており、省エネルギーで光熱費が掛からず、快適で健康に暮らせる「エコハウス」に注目が集まり、事例が少しずつ増えています。
建築家の松尾和也さんは長年エコハウスの設計に取り組み、経験をふまえた理論的な設計手法を確立。『エコハウス超入門』はその手法を体系化し、分かりやすくまとめたもので、エコハウスに関心のある設計者や現場監督、営業マンなど住宅に関わるすべての実務者が知りたかった情報が満載です。今回は本書から第1章を抜粋し、紹介します。
冬に暖かく、夏に涼しい家を
つくるには計算が欠かせない
Point1
暖かく涼しい、省エネルギーな家をつくるには 暖冷房負荷などの計算が必須
Point2
計算結果が実際に近い結果となっているか 引き渡し後の温度測定や体感で検証する
Point3
計算なしでつくられた住宅は暑く、寒く、 不快で健康を害し、エネルギーを大量に使う
エンジニアリングの分野を見たときに、構造の分野では建築基準法に最低基準が示されており、計算が義務付けられている(ただし、1・2階建ての木造住宅の場合は簡易な壁量計算)。
一方、断熱や省エネルギーの分野を見ると、ビルや施設建築では法による規制があり、設備設計者によって計算がなされているが、住宅には法的な規制がなく、計算も義務ではない。多くの住宅は勘頼みで暖冷房負荷などの計算をまったく行わない。そうしてつくられた住宅は暑く、寒く、不快で健康を害し、エネルギーを大量に使う。法律の不備と設計者の勉強不足から大きな弊害が生じている。
日本は地震大国であり、ここ30年間で2度の大震災を経験し、木造以外の耐震性能に関しては世界一の水準であることが確認できた。反面、断熱性能は世界的に見て低水準だ。その根底には「構造で人は死んでも断熱では人は死なない」という認識がある。実際には逆だ。純粋に構造が原因で亡くなった方は2度の大震災でも1万人はいないはずだ。一方、断熱不足による死者は推定で年間1万9000人もいる(図1)。
では、冬に暖かくて夏に涼しい、省エネルギーな家をつくるには何が必要か。それは暖冷房負荷などを計算(シミュレーション)して確認することだ。工業製品と異なり、住宅は一品受注生産で試作やテストができないので計算は重要だ。
計算が結果に結びついているかを検証することも大切だ。設計者は引き渡し後に建物を訪れて温熱環境を体感し、温度測定をする。この経験を繰り返すことで計算が生きた感覚として体に染み込んでくる。
今までの慣習を変え、計算して客観的に性能を明らかにする動機付けとして、次頁に「省エネ×健康マップ」を掲載した(図2)。自社の建物が住宅市場のどのあたりに位置するのか計算してみてほしい。
『エコハウス超入門』の中身とは?
■第1章 どんな住まいや室内環境を目指すべきか
METHOD
01-「頑丈でシックハウスにならない普通の家」がベースになる
02-冬に暖かく、夏に涼しい家をつくるには計算が欠かせない ◀︎今回の記事はこちら
03-「普通の家」の温熱環境は劣悪で光熱費が高すぎる
04-床暖房のコストを窓と無垢フローリングに回す
05-家を小さくするのも省エネ手法の1つ
06-冬は21°C・45~50%、夏は27°C・60%を目標にする
07-絶対湿度と相対湿度の相関で快適性を把握する
08-周壁平均温が低いと健康的な室内環境にできない
09-室温22°C、周壁平均温21°Cが現実的な目標値
10-周壁平均温を知る方法は2通りある
11-日射遮蔽と高い断熱性能が備わった家は夏でも涼しい
12-梅雨~夏に通風を重視するとカビやダニと共存する家になる
13-室内の二酸化炭素を1000~1500ppm以下に保つ
■第2章 断熱性能はどのように高めるとよいか
■第3章 窓に必要な性能をどのように満たすか
■第4章 給湯や冷暖房の熱源をどのように選ぶか
■第5章 換気量をどう確保して熱損失を抑えるか
■第6章 エアコンはどのように選んで使いこなすか
■第7章 建物配置や形をどう整えると日射が増すか
■コラム
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