日本の住宅は欧米に比べて質が低いと言われきました。その状況が少しずつ変わってきており、省エネルギーで光熱費が掛からず、快適で健康に暮らせる「エコハウス」に注目が集まり、事例が少しずつ増えています。
建築家の松尾和也さんは長年エコハウスの設計に取り組み、経験をふまえた理論的な設計手法を確立。『エコハウス超入門』はその手法を体系化し、分かりやすくまとめたもので、エコハウスに関心のある設計者や現場監督、営業マンなど住宅に関わるすべての実務者が知りたかった情報が満載です。今回は本書から第1章を抜粋し、紹介します。
「頑丈でシックハウスにならない
普通の家」がベースになる
Point1
まずは「頑丈でシックハウスにならない 何の変哲もない家」が求められる
Point2
上記の達成のために台風や雨漏り、地震、 火事、温熱環境、騒音対策を満たす
Point3
設計者には工学的知識(エンジニアリング)が 欠かせない
アメリカの著名な心理学者のアブラハム・マズローが唱えた「欲求段階説」によると、人間の欲求には、1生理的欲求、2安全の欲求、3親和の欲求、4自我の欲求、5自己実現の欲求―の5段階があり、下位の欲求を満たすとより上位の欲求を満たしたくなるのだという(図)。
この説を住宅にあてはめてみると、1生理的欲求:生活費で精いっぱいで家に費用をかけられない状態、2安全の欲求:地震で壊れない健康を担保できる家、3親和の欲求:家族の仲をとりもち、近隣との関係を悪化させずに町並みに調和させた家、4自我の欲求、5自己実現の欲求:自分が好きなデザインや自慢したくなるような家、がそれぞれ該当する。
大多数の建て主は1~5のすべてを満たす金銭的な余裕がないため、下位の欲求から満たしていくことになる。当然、「構造的には弱いがデザインはすばらしい家」ではなく、「頑丈でシックハウスにならない何の変哲もない家」をまずは求めることになる。
実際には構造や雨漏りなどのトラブルを抱え、2の安全の欲求すら満たせない住宅が少なくない。安全の欲求を満たすには台風や雨漏り、 地震、火事、温熱環境、騒音などに対してまんべんなく対策する必要があり、それには設計者に工学的知識(エンジニアリング)が必須となる。十分なエンジニアリングの技能を備えた住宅設計者はそれほど多くないのが現状だ
『エコハウス超入門』の中身とは?
■第1章 どんな住まいや室内環境を目指すべきか
METHOD
01-「頑丈でシックハウスにならない普通の家」がベースになる ◀︎今回の記事はこちらから
02-冬に暖かく、夏に涼しい家をつくるには計算が欠かせない
03-「普通の家」の温熱環境は劣悪で光熱費が高すぎる
04-床暖房のコストを窓と無垢フローリングに回す
05-家を小さくするのも省エネ手法の1つ
06-冬は21°C・45~50%、夏は27°C・60%を目標にする
07-絶対湿度と相対湿度の相関で快適性を把握する
08-周壁平均温が低いと健康的な室内環境にできない
09-室温22°C、周壁平均温21°Cが現実的な目標値
10-周壁平均温を知る方法は2通りある
11-日射遮蔽と高い断熱性能が備わった家は夏でも涼しい
12-梅雨~夏に通風を重視するとカビやダニと共存する家になる
13-室内の二酸化炭素を1000~1500ppm以下に保つ
■第2章 断熱性能はどのように高めるとよいか
■第3章 窓に必要な性能をどのように満たすか
■第4章 給湯や冷暖房の熱源をどのように選ぶか
■第5章 換気量をどう確保して熱損失を抑えるか
■第6章 エアコンはどのように選んで使いこなすか
■第7章 建物配置や形をどう整えると日射が増すか
■コラム
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