「この先も、アフターサービスを続けられますか?」
「住宅ローンが最長35年なのに、住宅の構造・防水の保証期間は10年のままでいいのか」。住宅業界の内外から寄せられる疑問の声に対して、工務店の長期保証をバックアップするシステムをいち早く商品化したのが、一般社団法人MEAS(ミース、東京都中央区)の最長60年保証に対応する「スマイノミライ」だ。代表理事の田中俊行氏は「建物の長期保証がスタンダードになるのは、当初の想定よりも格段に早くなるだろう」という。その一方で、田中氏が危惧するのが、工務店が導入しているアフターサービスの現状だ。「将来の負担まで考えて導入されているケースは少ない。まずは今、そこを見直していくことが、これからの時代を乗り切っていく展望や経営戦略のためにも必要ではないか」。長期保証とアフターサービスについて、田中氏の提言を聞いた。
―― いまの日本では人口減少と高齢化が進み、かつてのような100万戸を超える新築着工数を期待することは難しい状況です。売ったらまた次、と追いかけるような住宅営業ではなく、一度お付き合いした建て主との関係を大事にして、そこからのリフォーム受注や紹介受注を目指すというスタイルを志向する工務店が増えてきているようですね。
田中俊行氏(以下、田中)建てた後のアフターサービスを通じ、顧客との信頼関係を築くことによって、引き渡し後の収益も見込まなければならないという意識の高まりを感じます。大手ハウスメーカーは、10年以上前から取り組んでいましたが、ようやく地域の工務店にも浸透してきましただ実際には、そのためのアフターサービスをどのように運用していくのかまでは考えられていないケースがほとんどです。
―― どういうことでしょうか。
アフターサービスから好循環を生み出す
田中 引き渡し後6か月、1年、2年、5年、10年、と10年間で5回点検するというケースをよく見かけます。毎年10棟を引き渡すと、合計50回の点検が積み重なっていきます。10年後には年間50回ペースで点検しなければなりません。毎年30棟を引き渡すなら年間150回ペース、これは相当な負担で、コストも人手もかかりますが、どのように担っていくのか具体的に想定できている工務店はわずかです。
―― なるほど。アフターサービスは長期的なサービスだからこそ、計画性が必要になるということですね。
田中 とくに定期点検は、積み上がる前や、外注化していない場合にコストが見えづらいです。将来この負担に直面したときに、約束していたアフターサービスを提供しないというわけにはいきません。
―― 「面倒をみてくれない」「話が違う」と建て主の不安や不満が募り、リフォーム受注や紹介受注どころではありませんね。
田中 大手はアフターの収益化を目的にアフターサービスを充実させています。そのアフターサービスが当たり前になったことで、経営戦略においてアフターの収益化は切り離せなくなりました。これからは、アフターサービスで好循環を生み続ける工務店と、悪循環に陥る工務店との二極化が進むと考えています。
―― アフターサービスから収益に結びつけられなければ、負担だけが増え続ける厳しい状況になるということですね。
田中 前向きにとらえれば、新築着工数が右肩下がりの市場でも、顧客との信頼関係を重視する優良な工務店が成長し続けられる環境になるということでもあります。
工務店と顧客の双方を守る長期保証という約束
田中 アフターサービスは、いかに顧客との信頼関係を長く築けるかだと考えています。私たちの事業は、それを追求することそのものです。保証料をいただいて、保証を実行するだけの保証会社であることに価値はありません。住宅業界、地域社会、そして共感していただいた工務店に貢献するため、長期保証の魅力を伝え、支援させていただいています。
―― 長期保証の魅力を具体的に教えてください。
田中 まず工事や施工品質に責任をもち、長くお付き合いをしてくれる工務店だという顧客の安心と信頼につながること。もうひとつは、優良な工務店を守れることです。
―― 工務店を守れるというのは、長期保証がアフターの収益化に寄与し、好循環を生み出すためでしょうか。
田中 そのとおりです。いくつかポイントはありますが、例えば工務店に責任のない無償補修のトラブル解消です。何を保証し、無償で補修するのかを決めれば、おのずと無償で補修できないものが明確化されます。保証書やアフターサービス基準書で無償と有償の線引きをすれば、定期点検で無償補修を迫られても逃げずに説明できますし、有償補修になれば収益になります。顧客の責任を工務店に転嫁できる関係、それは信頼関係ではありません。
―― 「保証すること」は、工務店の負担でしかないと誤解されている方は、案外多いかもしれませんね。
田中 もちろん、 ただ長期保証すればメリットを享受できるわけではなく、定期点検をきちんと実施し、基準書を用意して顧客に納得してもらい、必要なときにメンテナンスやリフォーム工事を提案できるようにしておくこと。そのすべてがそろって意味があります。私たちが目指すのは、工務店と顧客の信頼関係ですから、それを実現するためのサポートに今後も注力していきます。
―― ただサービスを提供して終わりというわけではないのですね。
田中 例えば、長期保証において私たちが第三者として存在することも極めて重要です。一度の施工ミスでもSNSで拡散すれば、致命的なダメージになる時代。問題が起きたときに「工務店にしっかりと対応してもらえた」「ここで建ててよかった」という顧客の安心感につなげる役割も、私たちには求められています。
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