日本には多くの森林資源がある。一方で国産材の自給率は以前より高まったとはいえ低水準だ。日本の林業の現状をどう理解し、これからをどう考えるべきか。林業に造詣の深い慶應義塾大学准教授・白井裕子氏に取材し、「日本の林業を理解するための基礎知識」として、8項目のQ&A方式でまとめた。ここでは、Q6~8を抜粋して紹介する。
Q.6 補助金が林業の発展を妨げている側面があるのか?
A. 林業では木材生産額以上の補助金が使われており、補助金頼みで経営を成立させる風潮がある。林業のための補助金か、補助金をもらうための林業か、分からなくなるほどで、現場は疲れている
➡林業には巨額な補助金が投入されている。これが需給バランスを歪めているのは否めない。2010年度を例に行政投資実績額を見てみる。林道と造林だけで3067億円。これに対して木材生産額は1953億円(金額は国と都道府県、市町村の合計値)。林業では木材生産額以上の行政投資が行われている。
1989年から2018年までの30年間で見ると、林道7兆9822億円、造林4兆466億円、合計12兆288億円。この間の木材生産額の合計は10兆6716億円。栽培きのこ類生産額が6兆4889億円。合計で17兆1605億円でしかない。
一方、補助金に頼らずに、新しい取り組みに挑戦している事業体もある。ただし、創意工夫に溢れる意欲的な事業者は、補助金の想定外で、不利になるため、イノベーションも生まれにくい。これも補助金制度の短所である。
Q.7 集成材や合板工場、木質バイオマス発電所は国産材利用にどのような影響を与えているのか?
A. 上記工場や発電所は購買力が強く、丸太を大量購入する。燃料として消費される木材は、最も安い価格帯である。安価な丸太の取引が増え過ぎると、質の良い、値段の高い丸太も消費し始め、木材価格全体が下がり始める
➡最近、需要が増えているのが集成材や合板、木質バイオマスなどに用いる安価な丸太だ。集成材や合板工場は大規模化が進み、大規模なバイオマス発電の施設も全国につくられている。
またQ5で述べたように林業側は、伐って出せばお金が得られ、売れれば構わないといった状況で、丸太が取引されていく。安価な丸太の使用量が増えると丸太全体の価格が下落する。なかでも最も価格の低い木質バイオマスの燃料の需要が急増している。
本来、木はカスケード利用すべきもので、バイオマス燃料には、ほかに使い道がない丸太の残りを用いるのが本筋だ。
Q.8 これからの林業はどうあるべきか?
A. 日本の山林や山村、木材資源にふさわしい産業のあり方を探る。伝統木造をはじめ、無垢の製材品や、その無垢材を使って大工棟梁や工務店が建てる木造住宅が結果的に不利な状況に陥っている、・・・
【ほか写真9点、グラフ・表3点など】
この記事は定期購読者限定の記事です。続きは『新建ハウジング別冊・ワンテーママガジン/健康・エコ 国産材が主役のサステナブルな家づくり P106~』(2021年9月30日発行)に掲載しています。
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