省エネルギーで環境負荷の低い建物とするには、躯体の高性能化に加えて、自然エネルギーや排熱を積極的に利用する必要がある。こうした取り組みは熱源を分散することにもつながり、災害にも強くなる。北海道の丸三ホクシン建設の取り組みを例に、インフラに頼らない建物のあり方を見ていく。
丸三ホクシン建設のモデルハウスは石狩市花川南5条の市街地に建つ。敷地は約50坪、延べ床面積は約34坪で、2016年に竣工した。同社は光熱費削減に積極的に取り組んでおり、12年前に建てた同社社長の首藤一弘さんの自邸では、太陽光発電や地中熱ヒートポンプを採用し、光熱費ゼロを実現している。
このモデルハウスはその取り組みを進化させ、省エネルギーと環境負荷低減に徹底的に取り組んだ。ベースとなるのが高断熱の躯体だ。基本は外張り断熱で、壁には充填断熱も併用。窓は木製サッシ+Low-Eトリプルガラスを採用している。UA値は0.28W/m2K。この躯体に設備の工夫が加わる。太陽光発電+蓄電池をはじめ、地中熱ヒートポンプや太陽熱、薪、ガスなど自然エネルギーを中心に多様な熱源を利用している。エネルギー自給率が高く、熱源が分散されているため災害にも強い。
太陽光はオフグリッド利用
一つひとつの設備を見ていく。まずは太陽光発電だ。太陽光発電は蓄電池を組み合わせたオフグリッド方式。発電した電気は売電せずに蓄電池にためて、室内の電灯と冷蔵庫の電気に供給している。
太陽光発電のパネルは8枚(1.6kW)を南東の壁面に施工している。一般的な傾斜の屋根に載せて南面に向けた場合と比較すると、通年での発電量は半減する。その代わりパネル上に雪が積もらないため、降雪時期でも発電が期待でき、方位の関係から冬の発電量も多くなる。「オフグリッドで使用する場合、売電目的の場合と異なり、使用量以上に発電しても使途がないため、通年での効率を最重視する必要がない」と首藤さんは説明する。
なお、昨今はパネルの価格が下がっているため、パネルの角度と方位を最適化せずに面積で補うという考え方も成り立つようになってきている。売電を考えた時でも垂直設置は応用できる手法だ。
太陽光発電をオフグリッドで活用するには、蓄電池の選定が重要だ。ここでは容量6.0kWhの業務用蓄電池「ESSP-3005/18P」(ソニー)を選定。この機器はパワコンや配電盤を介さずに太陽光パネルと直接接続できるほか、発電した電気を整流化し、蓄電池に充電しながら利用もできる。多くの住宅用蓄電池は充電と放電は同時にできないので、オフグリッドに向いた機器だ。
この機器は搭載されている二次電池から蓄電池本体の起動が可能なため、商用電源のない環境や停電時にも使用できる。停電時には瞬時に電力供給を自動で切り替える無瞬断機能(UPS)も搭載している点もオフグリッド向きだ。この機器にはさまざまな運転モードがあるが、現在は蓄電している電気量が50%を切ったら商用電力に切り替わる設定で運用している。
地中熱ヒートポンプの活用
次に暖房を見ていく。暖房は温水パネル暖房を採用し、その熱源に地中熱ヒートポンプを用いた。地中熱ヒートポンプは・・・・
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この記事は、『新建ハウジング別冊・プラスワン2020年4月号 令和流・高性能住宅~いま求められるレジリエンス性能~』(2020年3月30日発行)P.54~57に掲載しています。
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