リヴアース(リビングプラザ、岐阜県養老町)社長の大橋利紀さんは、断熱性や耐震性のように数値化できる性能と同時に、情緒的な心地よさも追求した家づくりに取り組んでいる。今年8月に竣工した「前庭奥庭の家」も、温熱環境上は多少不利であっても、居心地の良さを住まい手が感じられることを重視した。もちろん性能も、耐震等級3の2倍の耐震性、HEAT20・G2に準ずる断熱性を実現している。
※掲載情報は取材時のものです
敷地条件から 「開く」方角を決める
敷地は山のふもとにあり、豊かな自然に囲まれている。しかし、道路に面している東側以外の三方は住宅に囲まれており、冬季の日射シミュレーションを行ったところ、日射はあまり期待できない立地でもあった。特に南は、隣家との間隔が狭い。
パッシブデザインの観点から見れば、2階建てにして日射取得量を増やすことが望ましい。しかし、建築主(40代女性)が80代の父親と同居するための住まいであることを踏まえ、生活のしやすさやメンテナンスを考慮して平屋にすることを決めた。
東側が開けているうえ、西側に向かって勾配がついており、130cmほど高くなっていることを生かすべく、大橋さんは「東に向けて開く」ことにした。住まい手が最も長い時間を過ごす空間であるリビングは「一番気持ちのいいところに」と、東側の玄関脇に配置。前庭の植栽で道路からの視線を遮りつつ、光や外の景色を取り入れる。
リビングの開口だけでは採光が不十分なので、中央に抜けのあるダイニングとキッチンを置いて、その南側に3畳ほどの「奥庭」を設けて採光を確保している。リビングからは、前庭と奥庭の両方を感じることができる。
窓が切り取る風景も重要
リビングから奥庭を挟んだ西側には、父親のための主寝室がある。高齢者は特に自宅で過ごす時間が長くなるので、リビングと同様、心地よく過ごせる位置を考えた結果だという。また、トイレや浴室にも近く、日常生活の負担を軽減することにも配慮している。昼間は仕事で家を空ける建築主の部屋は、最も奥に配置した。
主寝室の東側の窓には、読書好きの父親のため、カウンターをつくった。さらに、リビングの西側の窓と高さをそろえてある。リビングにいても、寝室にいる父親の気配を感じ取れるようにするためだ。
大橋さんが決めていることのひとつに、「風景が良好でないところに窓をつくらない」がある。窓からの眺望は、情緒的な心地よさを左右する。この事例では、南に窓を設けても見えるのは隣家の壁だけ。そのため、リビングには、日射取得量の多い南向きの開口を設けなかった。
場合によっては「自分で風景をつくる」こともある。ダイニングは奥庭を通じて南に開かれているが、ウッドフェンスと植栽でカバーした。ちなみに、どんなプランでも、キッチンから必ず庭が見えるようにしているという。
外壁には手焼きの「焼杉」使用
前庭奥庭の家の外観で最も目を引くのは、外壁に「焼杉」を使っている点だろう。同社が使う焼杉は手焼きで、炭化層が厚い。剥落しにくいため、より長く焼杉の雰囲気が続く。焼杉以外では、スギ板や塗り壁、リシンかき落としを採用している。
焼杉の外壁を保護するためにも・・・【残り2174文字、写真9枚、平面図1点・矩計図2点ほか】
この記事は、『新建ハウジング別冊・ワンテーママガジン2020年12月号 いまどきの工務店住宅』(2020年11月30日発行)P.32~37に掲載しています。
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