扇建築工房は「木の家」の激戦区である静岡県浜松市で活動する工務店。細部まで練り込まれた設計で高い評価を得ており、1棟あたり平均で3500万円の家を確実に受注している。同社の家づくりについて、近作「大柳の家」を中心に設計の側面から見ていく。
建物と街並みの関係を整える
計画に際して同社が大切にしているのが、建物と街並みの関係を整えること。建物を北に目いっぱい寄せて隣家の日射を遮るような配置は避けている。周囲の景観になじませることも重視している。比較的余裕のある敷地が多いこともあり、平屋もしくは「平屋+一部2階」にまとめて建物の高さを抑える。さらに軒を出して軒高を下げる。屋根勾配や切妻の棟の方向なども通りから低く見えることを意識して決める。
外装材はエイジングの効果が高い漆喰と木板が中心だ。木板は通常の羽目板のほか、最近では焼杉を用いることも多い。外構工事も必ず新築時に行う。植栽が建物に絡むことで、建物はより街並みに溶け込んでくる。
耐久性を高めつつ外観を整える
外装の設計は耐久性重視だ。屋根はシンプルな形状で掛けることを心掛ける。寄棟か切妻が基本で、その2つを組み合わせることもある。最近は寄棟が増えている。高さが抑えられるためだ。寄棟の勾配は3~4寸、軒の出は4面とも同じ寸法にそろえる。
屋根葺き材はガルバリウム鋼板0.35mm厚。伝統素材である瓦にも注目しているが、開口部を広く確保したいため、耐震性能を確保しやすい軽量の鋼板としている。寄棟の場合は横葺き、切妻の場合は瓦棒葺きとなる。寄棟のときに瓦棒葺きを用いないのは瓦棒が棟と斜めに取り合うので施工が煩雑になるためだ。
屋根形状を問わず軒の出は900~1200mm程度確保する。外壁を保護するとともに軒下空間を設けるためだ。軒先に設ける雨樋はステンレスに銅板を貼り合わせた「SusCu」(タニタハウジングウェア)の半丸が第一選択肢だが、寄棟の場合、30万円ほどコストアップになるためガルバリウム鋼板の半丸になることが多い。
外壁は前述の通り漆喰かスギ板張り。焼杉も多い。漆喰壁を塗り回す場合は寄棟屋根にして四方に軒を出し、雨から保護する。劣化防止に加えて汚れの付着やコケの繁茂を防ぐのが目的だ。一方、焼杉は汚れが目立たないことから、軒は出すもののケラバゼロの納まりにすることもある。
漆喰壁の場合、・・・・【残り3241文字、写真30枚、平面図1点・矩計図2点ほか】
この記事は、『新建ハウジング別冊・ワンテーママガジン2020年12月号 いまどきの工務店住宅』(2020年11月30日発行)P.52~59に掲載しています。
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