一人親方から工務店へ
伊藤さんは1人で運営する難しさを痛感し、複数人体制に移行することを考えるようになった。パートナーとしては、大工で施工管理もできる人材が理想だ。現場を見られる人間が2人になれば、現場が重なっても対応でき、設計にも時間を割ける。人材に目星が付いているので近々新体制に移れそうだという。ちょうどよいタイミングで設計施工のかたちで戸建住宅の依頼を受け、計画が進行中だ。
その次のステップとして伊藤さんが目指しているのは加工場を持つことだ。伊藤さんが腕を磨いた村上建築工房は広い加工場を持ち、充実した木工機械を揃えて材料の加工から行っていた。材料づくりから手掛けることで、建築の自由度は格段に増す。伊藤さんは自分でもそれを強みにしたいと考えていた。町田市の郊外なら場所を得ることは可能だ。
もう1つの課題が顧客の開拓だ。これまでの仕事は知り合いなど縁故関係がほとんど。工務店として軌道に乗せるには一般の顧客を増やす必要がある。それにはwebマーケティングが欠かせない。現在、伊藤さんはホームページを準備中だ。SNSの活用を交えて大工である強みを生かしたブランディングを展開する計画だ。
昨今、代表者が大工技能を備えた新しいタイプの小規模工務店が少しずつ増えている。いずれも個性的な工務店で、志向性はそれぞれ異なる。伊藤さんの自己認識は大工だという。大工が設計もこなし、現場も見る。かたちとしてはかつての棟梁だ。だが伊藤さんの建築に対するスタンスはもっと柔軟だ。大工特有の材料自慢や腕自慢には興味がない。現代的で合理的な感覚でよいもの、新しいもの、格好よいものを追求したいと考えている。
伊藤さんの立ち位置は伝統的な大工のあり方にモダニズム以降の合理性を加味した「新伝承派」だ。こうしたスタンスがこれからの大工工務店の1つの方向性になっていくと思われる。伊藤さんの新しい棟梁への道は始まったばかりだ。
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