2018年の大阪府北部地震で一部破損し、その後倒壊の恐れがあるとして撤去された、四條畷神社の参道入口にある「一の鳥居」。木又工務店社長で棟梁の木又誠次さん(大阪府四条畷市)は「困ったらひと肌脱ぐのが棟梁の役目」と自社で1000万円の借金をし、“地元のシンボル”復活に向けて奔走した。途中コロナ禍の影響で1年の工期延長となったが、今年9月、完成にこぎつけた。四條畷市で生まれ育ち、青年団初代団長も務めた棟梁の心意気に地元や全国から賛同が集まり、目標の1500万円を超える2000万円の資金集めに成功。木又さんは「暗い時代に何か明るい兆しや感動を届けたいと思って取り組んだが、逆にこちらが大きな感動をもらった」と話す。
大阪北部地震での被害を受け、その「一の鳥居」だけでなく、そばに設置されていた灯籠や石碑も、倒壊を危惧し撤去された。“地元のシンボル”が、参道からなくなったことを寂しがる地元住民の声を耳にした木又さんは「工務店の技術を活かせる木造でなら再建できるはずだ」と考え、製材所に見積もりを取った。
1300万円という見積もりを受け、銀行から再建費用として1000万を借り、鳥居を作るための木材として、約800万円で良材の産地として知られる奈良県吉野産の樹齢200年以上のヒノキの丸太5本を独断で購入した。
クラウドファンディングで資金集め
木又さんは心意気と勢いで、銀行から自腹で1000万円借りたものの、それを全て負担できるほど、一地域工務店として資金力も体力もある訳ではなかった。当初、市内の商店からの寄付を中心に資金集めをしようと計画したが、コロナ禍によって断念。計画を1年延長した。しかし、時間が経っても状況は変わらなかった。大きな打撃を受けている商店から資金を集めることをやめ、資金集めのための実行委員会を立ち上げた。寄付募集のチラシやプレスリリースといった広報活動を行なった。
その活動は地元の仲間を通じて広まり、メディアに取り上げられるようにもなる。四條畷神社が祀る楠木正行のファンであった報道関係者や、過去に木又さんが鳥人間コンテストに参加した際の密着取材を行なったテレビのプロデューサーといった多くの人々の協力を得た。そうした活動により、全国から想定以上の寄付金が集まった。
12月時点では1500万円の目標額を上回る2000万円に到達。クラウドファウンディングで返礼として名前を刻む100万円の寄付をした人は現在7人に及ぶという。
大工棟梁として当たり前のことをやった
木又さんは、今回の鳥居再建について「昔から、地元の人が困っていたら『よし任せておけ』と一肌脱ぐのが棟梁の役割。先人たちが当たり前にやってきたことを自分もやっただけです」と述べる。
木又さんは来年の春に2人の新弟子を迎えるという。地元に頼られる「棟梁」を次世代に継承すべく、厳しくも愛と熱意を持って指導する―。
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