新潟県三条市のサトウ工務店の取り組みを紹介する。 今回は同社代表の佐藤高志さんの経営や家づくりのロジックにフォーカス。 キーワードは「理由付け」「先行投資」「情報共有」だ。
※この記事は、新建ハウジングの人気連載「最少人数で生き残る nano工務店の経営術」(2021年8月10日号掲載)をデジタル配信用に再編集したものです。
サトウ工務店
代表者:佐藤高志
設立年月:平成7年1月4日
住所:新潟県三条市高屋敷65-1
2022年度の売上(目標):2.8億円
社員数:6名 社員の業務分担:設計2名、大工4名
社内で所有している資格:一級建築士、一級建築士事務所登録、一般建設業登録
使用している建築系ソフト:jww、ホームズ君、スケッチアップ
所属団体:新潟県建築組合連合会、みんなの会、住学
佐藤さんは何かを判断するときに「理由付け」を重視する。「理由付けができればそれが正解になる」という考え方が根底にある。理由付けができるということは理屈の組み立てができていることであり、その理屈に従って取り組めば結果が出やすいということだ。
理由付けを明解にする
同社の取り組みには明確な理由付けがなされている。
①郊外を本拠地にする
前回紹介したように佐藤さんは社屋を街なかへ移し、経費軽減のために大工にフリーになってもらうことを考えた時期がある。それを断念したときに郊外の本社と社員大工による家づくりを選択する理由を考えた。
郊外の自然に囲まれた環境は来訪した建て主に新鮮な印象を与える。またアクセスのよい街なかの場合、冷やかしでも社屋に立ち寄れるが、郊外を訪問するには明確な動機が必要だ。何より数十分かけて建て主のほうから足を運んでもらうことで、建て主と対等の関係を築きやすくなる。
②社員大工を活用する
社員大工を残した理由付けはこうだ。自社の仕事に特化しているからこそ手間を要する納まりなどが可能になる。現場で下地などを調整し、より丈夫で性能がよく、きれいに納めることもできる。安定的に人手を確保できる点も重要だ。
③プランに説得力をもたせる
同社は設計力に定評があり、一棟ずつまったく異なるプランを提案している。それを同社の建て主はすんなりと承認する。納得できる理由があるからだ。まずは公的基準の最高水準の性能であること。長期優良住宅で耐震等級3、HEAT20のG3が標準だ。
その上で敷地を読み解き、日射や眺望を生かして景観との調和を図る。この敷地にはこのプランしかないと感じさせるのだ。さらに打ち合わせ時の建て主の言葉から建て主固有の要素を読み取って提案に取り入れる。これらによりプランはほぼ一発で承認される。
④価格に説得力をもたせる
契約に際しては価格も重要だ。同社の建てる住宅は延べ床面積30坪前後が多く、外構込みで坪100万円程度。この価格帯の提案を承認してもらうには、価格に相応の理由があることを理解してもらう必要がある。それが前述した公的基準の最高水準の性能と機能性建材モイスを多用して高精度に仕上げた内装、社員大工による細部まで手を掛けた造作だ。高性能な躯体と良質な素材を、手間を掛けて施工していることが伝われば、坪100万円でも高いとは言われない。
先行投資で住宅の質を高める
投資の仕方も独特だ。一般に経営者が売上を伸ばそうと考えたときには、営業マンを雇ったり、モデルハウスを建てるなど営業面に投資する。
それに対して佐藤さんは住宅の質を高めるための新しい材料や工法、納まりなどに先行投資を行う。家づくりの手法は時間とともに多くの工務店に共有される。そのなかで住宅の質を高く保つには新しいやり方に挑戦し続けることが不可欠だと佐藤さんは考えている。
新しい試みは予想以上に手間が掛かったり、手直しが生じるなど粗利を圧迫するリスクもある。だが、他社に先んじて新しいことを取り入れることで、先行者利益を得られる効果のほうが大きい。
①大型パネルへの転換
上記の分かりやすい例が大型パネルだ。1棟目の計画時には価格の見当がつかなかったが、粗利を圧縮してでも取り組む価値があると直感的に考えた。結果的にはコスト増は工期短縮と現場作業の省力化で相殺できた。
他社に先んじて大型パネルを全棟で採用したことで、パネル製造メーカーとの関係が密になり、さまざまな仕様を試みることでノウハウも積み上がった。
②大工の待遇改善
同時期に大工の待遇改善に向けて投資した。手間の掛かる作業を気持ちよくやってもらうには、休日と給与が他業種と比べても遜色ない水準であることが重要だ。大型パネルで工期が縮まったことを生かして週休2日に変更。さらに日給月給制を改めて固定給とし、2年連続でベースアップした。「大工に投資するのは製造業が最新の加工機械に投資するのとまったく同じこと。待遇が悪くて辞められるほうが経営上はリスク」と佐藤さんは説明する。
投資額によっては利益を圧迫する年もあるが、会社を畳むときに負債になっていなければそれでいいと佐藤さんは考えている。「このような考え方で投資できるのは小さな会社の利点の1つ」と佐藤さん。
同業者による情報共有
情報収集や情報発信の考え方も独特だ。地元の同業者との交流を重視している。「実務的な情報は同業者に教えてもらうのが一番早くて役に立つ」と佐藤さん。
①「住学」の立ち上げ
同業者が教え合う関係をつくるために佐藤さんは3年前に「住学(すがく)」という勉強会を立ち上げた。定期的に集まって情報交換をするとともに現場や事例も見せ合っている。「お互いの手の内をさらけ出すことで全員が進化する」と佐藤さん。会員同士が営業上で競合することもあるが、せいぜい年間1〜2棟だ。それは収まるべきところに収まっただけだと佐藤さんは考えている。「わずかな競合を気にするより、小さな工務店や設計事務所は実力派揃いだと見込み客に知ってもらう効果のほうが遥かに大きい」と佐藤さんは力説する。
②規格住宅の提案へ
佐藤さんは情報発信にも意識的だ。大型パネルのノウハウも、自身が会長を務める大型パネルに関心をもつ工務店や設計事務所の集まり「みんなの会」を通じて積極的に公開している。
情報発信をさらに進めた取り組みが、大型パネルを用いたG3仕様の規格住宅の提案だ。器だけ決まっていて、間取りと設備は自由という考え方だ。大型パネルを用いることで、高断熱住宅に不慣れな工務店でも高性能化を図れる。この住宅の図面やノウハウを仲間内で無償で提供し、高性能化の要請に対応できる工務店を増やそうという考え方だ。すでにプロジェクトは動いており、年内に現場見学会のかたちでお披露目する予定だ。
このように佐藤さんの取り組みは独特だが、けして特殊ではない。小さな工務店にとって参考になることばかりだ。今回紹介した内容のほか独自のマーケティング手法や中規模木造へのアプローチなど同社の注目すべきトピックは尽きない。別の機会にこのあたりも紹介したい。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。