富山県砺波市で活動するフラグシップ。余白を残した大らかな空間に建て主によるDIYを組み込んだ家づくりは非常に個性的だ。
※この記事は、新建ハウジングの人気連載「最少人数で生き残る nano工務店の経営術」(2021年5月10日号掲載)をデジタル配信用に再編集したものです。
フラグシップ代表の橘泰一さんは富山県立高岡工芸高校建築科卒業後、地元のゼネコン会社に就職。住宅部門に4年間務めた後に上京し、派遣の現場監督として働いた。主にマンションを担当し、RC造の技術を学んだ。仕事は面白かったが、建て主の顔が見えないことに物足りなさを感じ、パワービルダーに転職。「売り建て」の現場監督として働いた。仕事には建て主との打ち合わせも含まれており、やり甲斐となった。一方で監督1人の担当物件は年間30棟に上り、現場は常に掛け持ちとなった。大工の技量の問題もあり、施工ミスが頻発した。瑕疵の責任は現場監督が負うのが常だった。
この厳しい環境で橘さんは仕事に打ち込んだ。激務の傍ら一級建築士の資格も取った。社員の入れ替わりが激しいこともあって橘さんは早期に昇進し、現場部門の主任となった。そこで施工管理の合理化を図った。一部は取り入れられたが、抜本的な問題解決は難しかった。
あっという間に4年が過ぎた。20代後半になった橘さんは施工管理の本格的な技術を身につける必要性を感じ、会社を後にした。そして、ブログを読んで気になっていた東京都大田区の工務店、創建舎にコンタクト。社長の面接を経て採用された。創建舎は社員大工による丁寧な造作を得意とする工務店で建築家の物件も手掛けていた。橘さんは細部の納まりを学び、施工図の技能を高めた。同社の年間の担当物件は4棟程度だったので仕事にもじっくりと取り組めた。
入社から8年後、2011年に橘さんは創建舎を退職。きっかけは東日本大震災だ。報道を見ているうちに地元への思いが強くなってきた。橘さんは富山県砺波市の小さな工務店に就職した。だが経営者と意見が合わなかった。今後について考えたとき、独立する決意が固まった。ちょうど姉から新居について相談されてもいた。地元のゼネコンに勤めていたときの職人のつながりも保っていたので、工務店を立ち上げる環境は整っていた。
独立に際してはパートナーのあゆみさんが力を発揮した。あゆみさんは一級建築士の資格を持ち、東京では住宅保証機構で働いていた。基本的な法務や税務の知識を持っていたので、登記や融資の手続きを手際よくまとめた。起業した翌年の2014年にはあゆみさんも勤めを辞めてフラグシップに参加。今の体制となった。
震災を機に地元へ帰る
同社の家づくりは橘さんのポリシーがそのままかたちになっている。地元のスギを使い、技能を持った職人と家づくり。施工図を描いて造作家具を確実に納める。そこに建て主によるDIYを組み合わせる。
DIYに前向きになったのは、橘さんが両親と同居する実家をリノベーションしたことがきっかけだ。仕上げ工事を中心に橘さんとあゆみさんはDIYに取り組んだ。自分の居場所を必要に応じて自分で整える。そこにはプロによる施工と別の価値があった。DIYを組み込むことで、自然とつくり込み過ぎず、余白をもたせたプランになっていった。
独立するまで橘さんは設計の経験がなかった。コンセプトをかたちにするには設計手法を確立させる必要がある。橘さんは建築家の秋山東一さんが講師を務める秋山設計道場に通った。実際の敷地を訪ねてその日にプランを完成させて添削を受ける実践的なカリキュラムだ。
橘さんは敷地や周辺環境を読み込んだ建物配置や外構のセオリーを学んだ。秋山さんは1つの方法論を繰り返すことを推奨した。トライアルアンドエラーでプランが洗練されていくからだ。橘さんはそれを忠実に守った。
こうして、コンパクトでシンプル、余白を残した大らかな空間という同社のスタイルが固まった。この躯体に建て主によるDIYを組み込んでいく。同社では材料や施工方法の指導のほかDIY部分の設計もサポートする。
性能面では耐震等級が2〜3。幅があるのは積雪荷重1.5mが求められるため等級3が難しいプランがあるためだ。省エネルギー性能はUA値0.4前後。同地は5地域なのでHEAT20基準でG1とG2の間になる。これはコスト増となる付加断熱をせずに性能を高められるギリギリの値だ。
耐震性能と省エネルギー性能は全棟自社で計算して確認。新築の価格は延べ床面積は30坪で税込み2600万円だ。ガレージなどの外構を整えるとプラス200万円となる。粗利は30%。今後は植栽に力を入れるために35%確保するのが目標だ。
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