新建ハウジングを読んでいるほとんどの工務店が、高性能を実現しているのではないだろうか。しかし、こと意匠・デザインとなると自信がない、深く考えていない工務店も少なくないだろう。そこには「性能とデザインが両立する住宅設計」という壁は必ず立ちはだかる。だが建築家の飯塚豊さんは「そもそも、性能とデザインは〝両立〟という言葉を使うような相反する要素ではない」と話す。それを証明するように、最先端の工務店はすでに性能とデザインを両立させている。今回は、そのポイントや思想を有識者と実務者のふたりの言葉からひも解いていく。
「建築家・アイプラスアイ設計事務所 代表取締役
一級建築士。法政大学デザイン工学部兼任講師。1990年早稲田大学理工学部建築学科卒業。
1990~2003年大高建築設計事務所に在籍。2004年i+i設計事務所を設立。2011年法政大学デザイン工学部兼任講師に就任、間取りの考え方だけでなく、建築構造、断熱・通気設計など木造住宅の設計に欠かせない実務上のノウハウを指導している。著書に『間取りの方程式』(X-Knowledge)がある。
オーガニックスタジオ新潟 代表取締役
1964年生まれ、新潟市出身。大学卒業後、ドイツで塾講師をしながら2年間、生活する。その後、大手住宅FCの本部・加盟店・木造系ハウスメーカーでマーケティングや住宅営業マンとして15年間住宅と向き合い、40歳の時に独立し、2009年、オーガニックスタジオ新潟(新潟市)を設立。創業から「自然素材」「庭と一体の設計」「エコハウス」をテーマに独自の思想を強く打ち出した家づくりを行い、現在では全国の工務店がベンチマークする地域工務店に。温熱性と意匠性の高さが評価され、「日本エコハウス大賞」(2018年)を受賞するなどの実績も上げている。
性能とデザイン、どちらも犠牲にしない!
工務店のための設計術
HEAT20や耐震等級3の家づくりが当たり前になりつつある今、設計力やデザインのレベルアップに取り組みたいと考える工務店は多いはずだ。しかし、デザインを追求することで性能が低下することを不安に感じたり、疑問を持つ工務店もまだ少なくないだろう。新建ハウジング主催の「工務店設計塾」の講師でもある建築家・飯塚豊さん(アイプラスアイ設計事務所)に、工務店の疑問に答えていただいた。
性能とデザインの両立なんて本当にできるのですか?
デザイン重視の住宅は、性能が悪いのでは?
両立できないは誤解!性能もデザインも目指すところは同じ。
私は、住宅のデザインで最も重要なのは「内と外との境界部をどう快適につくるか」だと思っています。HEAT20・G2、耐震等級3といった性能の数値目標を守ったうえで、デザインの最重要課題である、快適で居心地のいい内外の境界部をつくることが必要になると考えます。
基本的に性能とデザインは矛盾しません。屋根・壁・床を面で固め、上下階の間取りを揃え、高気密・高断熱化して性能を高めれば、窓の多い開放的な大空間もつくれます。むしろ、性能が上がれば上がるほど、空間デザインの自由度も高まると言えるのです。
G2で耐震等級3を取る場合、框の太い樹脂サッシにしないと数値が下がらない、スキップフロアがつくりにくくなるなどのわずかなマイナス面はありますが、性能が上がることは、デザインにとってプラスに作用することの方がはるかに多いのです。大きな窓で増えた熱損失を、日射取得量を増やして補うなどすれば、マイナス面を技術で解決できることもあります。
性能を重視する工務店の多くは、性能とデザインを両立できていないのではありません。まだ、正しいデザインというものを理解されていないだけだと思います。
飯塚先生は「間取り優先の設計から脱却しよう」と仰いますが、デザイン(外観)優先で、本当にお客様が満足する家をつくれるのですか?
できます。いい家には性能とデザイン、どちらも必要!
お客様の要望のほとんどは、部屋数、部屋の位置、家事動線、収納など間取りに関することです。工務店も設計事務所も、この要望を満たせば成約できるということで、予算の範囲内で要望通りの間取りをつくることに必死になります。そうなると屋根や窓のデザイン、構造、配置計画などは全部後回しになって、結果的に性能が低く、デザインも悪い家ができてしまうのです。
住宅で施主の要望以上に重視すべきなのは環境です。周辺環境の魅力と問題点を正確に把握し、周辺環境の魅力を最大限に生かすように内外の豊かな境界部をつくってやれば、室内にいながらにして環境を享受できる家がつくれます。居心地のいい場所をつくることは、住宅の大きなテーマです。動線や収納、すなわち間取りがデザインの最大のテーマになっているようでは、本当の意味での満足は得られないのではないでしょうか。
だしがまずいのに、味付けだけを工夫してもおいしい料理ができないように、環境を生かし切るデザインをしなければ、いい家は絶対できないのです・・・・
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この記事は、『新建ハウジング別冊・ワンテーママガジン2021年5月号工務店ならではの広報&ブランディング』(2021年4月30日発行)P.41〜に掲載しています。
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