確かな施工力で、飯塚豊さん(i+i設計事務所)をはじめとする多数の建築家・設計事務所から信頼されている榊住建(埼玉県さいたま市)だが、設計力の高さも折り紙付きだ。
設計の責任者である企画設計部部長・山本浩二さんは、その人なりのカラーが求められる建築家に対し、工務店は「住みやすい」設計が第一と考える。建築家よりも身近な「ちょうどいいポジション」として棲み分けを図りつつ、設計力、施工力双方の強みを生かす。
オリジナリティより住みやすさ重視
山本さん曰く、同社の設計は「カメレオン的」だ。性能と素材には確固たる指標やこだわりを持っているが、誰が設計したのかすぐ分かるほどデザインの個性は強くない。過去の事例を見ても、モダン、スパニッシュ、和風などスタイルは多岐にわたっている。
その時々でスタイルを変えるのは、もちろん顧客の要望に応えるためだが、一方で設計事務所に対し、自社の立ち位置を明確にするためでもある。山本さんは「工務店の設計者は、使いやすい間取りをつくることが第一」と考え、独自のカラーを持つ設計事務所との違いを意識している。
同社の顧客の中には、設計事務所への依頼を考えていた人も多いという。設計力を持ちつつ、より身近な存在として、設計事務所志向の顧客も引き付ける「ちょうどいいポジション」を確保している。
最終的に同社ではなく、建築家に依頼することになるケースもあるが、その場合でも施工を自社で受注できる。「設計・施工、両方ができる強み」だ。
スキルある女性の力を借りる
社内で設計を担当するのは、山本さんともう1人の女性だ。基本設計は山本さんが行うが、実施設計や図面を作成する段階になると、連携している外部の設計者が加わる。以前は設計の全てを外注していたが、設計者が社外だと失注の原因になりやすいため、2016年から現在の体制に切り替えた。
連携している設計者は4人で、全員が女性。結婚や出産を機に実務から離れてしまったが、ハウスメーカーなどで設計の経験を積んだ人材はあちこちにいる。彼女らのスキルを活用し、設計業務の効率化を図っている。
顧客との打ち合わせに同席してもらうことも。山本さんにとっては「住宅設計に女性目線の意見は不可欠」という意味もある。
安易な提案は比較される原因
設計力が高まるにつれ、競合他社と比較される存在から脱却していった。相見積もりは一切受けず、指名を受けてからでなければプランは基本的につくらない。それでも、むしろ特命的な受注が増えているし、単価も坪80万円から90万円前後まで上昇している。
契約前に、1度でもプランをつくってしまうと、見込み客はそれを持って他社に行ってしまう。しかも、他社と比較する人は「最後は金額ばかりを見る」傾向があり、価格競争に巻き込まれやすくなる。
もちろん、性能を求める生活者は増えているから、高断熱・高気密、耐震等級3はほぼ必須条件。顧客は「まずG2や耐震等級3の家づくりに納得する」。そのうえでデザインが問われるので、選択肢から外れないよう「性能を担保できる設計力」が必要になる。
さいたま市周辺は、東京のベッドタウンとして根強い人気を誇るエリアだ。そこに住まいを構えようとする人は勉強熱心なので、ここだという工務店に行きつくと、ほぼ確実に契約するという。
長すぎず短すぎずの「待ち」時間
同社もご多分に漏れず、YouTubeでの専門家の情報発信の影響を受けている。以前は、自社設計で年間5棟程度のペースだったが、今年は・・・・
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この記事は、『新建ハウジング別冊・ワンテーママガジン2021年12月号 工務店の経営を支える設計力』(2021年11月30日発行)P.34~39に掲載しています。
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