フルマークハウス(吉田建設工業、長崎県島原市)は4年ほど前、建築家・伊礼智さんの設計によるモデルハウスを建てた。
以来、設計力を磨き続け「(モデルハウスに)いかに近づけられるか、アウトプットを重ねてきた」と話すのは、同社取締役の吉田安範さんだ。
工務店の、限られた地域を商圏とする特性を胸に刻み、設計・デザイン・性能・素材の全てを高めていくことで、地元で「コアな人々から選ばれる工務店」になる道を探っている。
地域で戦うために設計力磨く
吉田さんは大学卒業後、ハウスメーカー勤務を経て同社にUターン。当時は同社も、多くの工務店と同じように、新建材を当たり前のように使っていた。大学で建築を学び、建築が好きなのに、思うような家づくりができていない――フラストレーションを感じる日々が、5~6年は続いた。
そんな時「ある人との出会いで目が覚める」経験をし、さらに伊礼智さんの存在を知った。地域工務店として「地元にちゃんとした家を残したい」という想いと「こんな家づくりは長崎にはない。だから自社の武器になる」とマーケティング的な意識もあったという。
吉田さんは、あくまで地元で物事を考える。「作品で全国から引き合いがある」建築家に対し、工務店は「地元で勝負する」しかない。今でも、設計力と性能、素材へのこだわりを全て備える工務店が周囲には少ない中、この4つを同時にアップデートすることで、自社のオリジナリティを確立できると吉田さんは捉えている。
8割から2割へ顧客層をシフト
設計力は顧客層を変えた。パレートの法則(80:20の法則。少数の要素が全体に影響を与える)でいう2割の生活者、つまり「ニッチ、コアな人」が新たな顧客に。新建材の家づくり時代は、大手ハウスメーカーと競合して価格競争になる「普通の戦い方」で、受注に苦戦していた。既存のやり方からシフトチェンジする怖さもあったが、それよりも「現在(いま)を変える」ことを目指していった。そこから脱却した今は、棟数も安定してきた。
営業や集客にかかる負担も、大きく軽減された。かつては、人が来やすいロードサイドに展示場をつくったりもしたが、今はほぼ宣伝はしていない。むしろ顧客に、インターネットなどで「見つけてもらえる」存在になった。1棟当たりの平均単価も、変化前の2017年に2600万円だったものが、2018年に3000万円、19年には3300万円、20年には3500万円に。21年はコロナの影響もあって3300万円ほどの見通しだが、年々順調に上昇している・・・・
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この記事は、『新建ハウジング別冊・ワンテーママガジン2021年12月号工務店の経営を支える設計力』(2021年11月30日発行)P.28に掲載しています。
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