国内の森林のうち人工林が占める割合は約4割とされるが、静岡県浜松市では人工林が8割を占め、そのうちの84%が「天竜区」にある。同区から産出する“天竜材”の特徴は、70 ~ 80年生といった大径木が多いことだ。同区内に拠点を構える製材業のフジイチと、浜松市内の石牧建築は、「天竜材大径木活用プロジェクト」として協働し、大径木から節のない化粧材をつくり、それを家づくりに用いる流れを構築。山主から直接買い付けて伐り出し、天然乾燥する木材と大工による墨付け・手刻みといった技術を結びつけることにより、持続可能な森林経営と地域の気候風土に根差した家づくりを実現しようと取り組む。
芯去り材を2枚取り
付加価値高め山に利益還元
古くから林業が盛んな浜松では、戦後の拡大造林で、ほかの産地より10年早く植林を始めたという。「全国の植林のピークは昭和53年だが、天竜では昭和43年」(フジイチ販売部長・内山忠彦さん)。そのため現在、大径木が多くなっているが、市場を見ると、大径木から梁せいの大きな梁材を製材しても需要は少ない。また、大径木は、バイオマス燃料や集成材などのラミナにすることも敬遠されるという。
そこで、フジイチと石牧建築では、先人から引き継いだ大切な財産で地域の恵みとも言えるこの天竜の大径木を何とか有効活用できないかと「天竜材大径木活用プロジェクト」をスタート。大径木から芯去り材を2枚取り、横架材として利用することで、新しい化粧材をつくることはできないだろうかと考えた。
芯去り材を製材するのであれば、大きな設備投資は必要ない。さらに、芯持ち材は価格が低い一等材だが、芯去り材は化粧材で高い価格で出荷でき、現状の製材設備、技術でより利益が得られ、その利益を山に還元するというサイクルをつくることもできる。
国内の森林資源は、年間8000万m3増える(成長する)とされるが、現在、利用(消費)されているのは1800万m3にとどまる。フジイチの内山さんと石牧建築社長の石牧真志さんは「今後は、全国的に大径木が増加し、10年後には、どこでも大径木をどのように扱うか悩みを抱えることになる」と口をそろえる。
天竜と尾鷲(三重県)、吉野(奈良県)は、日本3大人工美林と言われるが、それぞれ木の育て方が異なる。例えば1haあたり3000~4000本植える天竜に対し、吉野では1haあたり1万から1万2000本と密集させる。そうすると、日が当たらない枝は枯れて落ちて節が深くなり、樽をつくる材料などにされる節のない板が取れる。天竜の方式は、貫板や柿板用として、木を太らせるというもの。
ただ、現在、天竜の山はA材が80%以上を占め、石牧さんは、「『天竜は下地材ですよね』と言われることもあるが、決してそんなことはない」と力を込める。大径木から化粧材を取るなど、新しい木取りの方法を考えることは、製材所の技術向上につながるとともに、良材を扱うことで大工の技術向上にも・・・・
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この記事は、『新建ハウジング別冊・ワンテーママガジン2020年10月号 健康・エコな家づくり』(2020年9月30日発行)P.32~に掲載しています。
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