現在、日本で取りざたされている「空き家問題」に対して、「カリアゲ」という自主プロジェクトを立ち上げて取り組んでいるリノベーション設計・施工会社のルーヴィス(横浜市)。所有者が再投資の難しい空き家を自社で借り上げ、リノベーション投資を行い運営する、その独自のビジネスモデルだけでなく、「既存の良い部分を活かしながら、懐かしい新しさに変化させる」というリノベーションの設計・デザインでも有名だ。
今回は、そんなルーヴィスに、カリアゲ事業を始めた背景や、効率よくリノベーションの現場調査を行うために活用している360度カメラRICOH THETA (リコー・シータ)について、話を伺った。また、ルーヴィスが独自にリノベーションした本社オフィスも、360度バーチャルツアーで紹介する。
リノベーションの仕事を始めた背景
――代表の福井さんはこれまで、家具のセレクトショップのお仕事や不動産業など、異色の経歴をお持ちですね。どのようなことがきっかけで、現在のリノベーションの仕事につながっていったのでしょうか?
福井さん:社会人になって最初の仕事は、家具のセレクトショップでした。1950年代のアメリカの家具を日本に輸入して、直して販売する、という仕事です。当時中目黒のカフェなどで、アメリカの1950年代の家具を扱っているのをよく目にしており、かっこいいな、と思っていたのがきっかけです。その後、父親が賃貸管理業を営んでいたこともあり、父親の仕事を手伝うかたちで不動産業に携わりました。
――古い家具の良いところを活かして再生して販売する、という最初の家具セレクトショップのお仕事も、現在のリノベーションのお仕事につながっているのでしょうか?
福井さん:いえ、当時はそういう意識は特になかったです。ただ、父親が営んでいたのが60年くらい経営している不動産屋で、古い木造住宅などをよく扱っていました。その頃ちょうど「空き家」が取りざたされていました。古い空き家は、現状回復してもなかなか売れない。でも、これから空き家が増えてくる、ということが問題になっており、「自分にも何かこれを課題解決できないか?」と漠然と考えていました。その時、「リノベーション」という存在を知り、自分もその仕事に携わってみたいなと思ったのが、きっかけです。
リノベーションに関わる仕事がしたいと考えたとき、そこでは「不動産・設計・施工」が主なプレイヤーになると考えました。不動産業は既に経験していましたが、設計についてはそれまで学校などで勉強していたわけではありません。だったら自分は施工をやろうかな、と思い施工屋にトライすることにしたのです。
――施工の仕事は、そこで一からトライされたということですね。
福井さん:はい、知り合いの現状回復を得意とする施工屋さんに、半年ほど修行させてもらいながら始めました。現在ルーヴィスでは、施工だけでなく、建築デザインも自社で行っています。社員も建築系学部の出身者がほとんどです。
「カリアゲ事業」について
――ルーヴィス様は、築30年以上の空き家・空室を、オーナー負担ゼロで再生・転賃して運用するサービス「カリアゲ」で有名ですね。このビジネスモデルはどのように始められたのでしょうか?
福井さん:数年前に全国の「空き家調査」があり、全国に空き家が約800万戸以上あって大変だ、という話を聞いたことがきっかけです。それまでリノベーション事業を行っていましたが、そもそも自分がリノベーションをやりたいと思ったきっかけは、「空き屋問題を解消したい」という想いがあった、ということにその時気が付きました。それまで10年ほどリノベーション・施工の仕事に携わり、不動産業も経験しています。そのどちらも活かせるような、また空き家を問題として捉えるのではなく、「空き家って割と面白い」という状況をつくれたらいいな、と考えていました。
6~8年間のカリアゲ期間の間に投資をして、事業として回収できる状態になってから、物件をオーナーにお戻ししています。所有権はオーナー様のままで、ルーヴィス側で物件をマスターリースで借り上げています。それをサブリース(転賃)して運用する、という流れです。オーナー様の投資はゼロで、自社が手がけるリノベーションで空き家の資産価値を向上し、安心して賃貸収入が得られる状態になってから、オーナー様の手元に戻ります。
――ルーヴィス様が手がけられたリノベーション物件は、既存建物の良さを生かした温かみがありとても印象的ですね。
福井さん:カリアゲは、築30年以上の建物を対象にしており、現在は都内、横浜の一部と大宮が対象エリアです。空き家問題が取りだたされてから7年ほど経ち、空き屋の中でも活用できるのは2割くらいしかない、という統計もわかってきました。それ以外は、解体になります。ルーヴィスでは、これまで累計で82棟のカリアゲを実施してきました。日本全体の活用できる空き家の2割のうち、数%でもルーヴィスのカリアゲ事業で再生できたら、と考えています。
▼ルーヴィス本社のバーチャルツアー(RICOH360 Tours)▼
※築約30年のマンション一室をリノベーションしたルーヴィス本社のオフィススペース。従来のフロア部分を一段低くし、天井部分をむき出しにリノベーションしたため、とても解放感のあるオフィス空間に
※画像内の矢印をタップすると、空間を移動しながらオフィスの様子を閲覧できる
THETAが施工現場を効率化
――ルーヴィス様は、その独自のビジネススモデルだけでなく、施工の現場もより効率よくできるよう、色々な取り組みを行っていると伺いました。そんな中、360度カメラのTHETAを今年から活用されているということですが、どのようにTHETAを活用されているのでしょうか?
荒井さん:知り合いの設計士が現場でTHETAを使っているのを見て、気になって購入しました。まず、現場調査の段階でTHETAを活用しています。リノベーションでは、最初に既存建物の現場調査が必要になりますが、クライアントの都合で事前の現場調査に一回しか行くことができないことも多々あります。そのため、最初の調査で撮り逃しなく現場の状況を記録する必要があるのです。
普通に写真を撮ると局所的になりがちで、この写真はどこの部屋の写真なのか、撮った人や現場に行った人にしかわからない状況になることも多いです。でも、360度カメラTHETAで撮影すると、現場に行っていない人でも現場の状況を360度画像で把握することができる点が便利です。
そのため、最初の現場調査の時にTHETAで撮影して、他の設計担当者がその画像を見ながら図面に落とし込むときの参考にしたり、その画像をGoogle photoのアルバムにまとめて、関係者にシェアし、関連業者の見積もり作成時にも活用しています。
――いつもどのようにTHETAで撮影しているのでしょうか?
石田さん:高さのあるスタンドとTHETAをセットで撮影しています。最初の頃はTHETAを手で持ち頭の上に掲げて撮影していましたが、少し高すぎると思いました。そのため、今はこのようなスタンドを使って、ちょうど空間の中央くらいの高さにTHETAが位置するようにしてから、撮影するようにしています。撮影時はスマホのアプリから遠隔でTHETAのシャッターを押しています。スマホを介して操作することが多いですが、スマホとTHETAのWi-Fiの接続性もスムーズなので、特に困ったことはありません。
――THETAを活用し始めたことで、現場調査にかかる時間は短縮されましたか?
福井さん:それまでは現場調査時にかなりの枚数の画像を撮影していましたが、今ではTHETAで各部屋を撮影し、他にいくつか補足的な静止画を撮影して終わり、という感じです。作業時間はかなり短縮されました。給湯器の品番やブレーカーのアンペア数など、細かい部材の文字までは360度画像では拾いきれないこともあるので、細かい箇所の記録は、引き続きスマホなど普通のカメラとも併用しています。
――クライアントさんにも、積極的に施工中の現場の画像を共有されているそうですね。
福井さん:建築の施工現場は、今までかなりブラックボックスだったという課題を感じていました。お客様も、施工中の現場をあまり見に行けたりする雰囲気ではなかったと思います。ただ、後々何かトラブルがあった時に、揉めたりすることもあります。それを防ぐため、施工中の写真は好きな時に見れた方がいいよね、という話になり、施工中の画像をGoogle photoにまとめて共有し、お客様を含めた現場関係者に共有するようになりました。導入したTHETAは、現在は施工現場の360度画像の撮影にも活用しています。
今後は360度画像を活用した施工管理の方法など、現場をもっと効率化させるようなことも考えています。
――現在、建設業界はDX化が進んでいますね。
福井さん:建設業界は他の業種に比べると、まだIT化が遅れています。今後は、他の業種並みにIT化を進めることが必要だなと思っています。その上で、ロボティックスなども活用してなるべく人を使わず、代わりに人が必要な新しい分野に人の力を投入していくようなことが必要かなと。360度カメラを使うと、移動時間・生産性が圧倒的に上がると感じています。今後も、新しい現場の取り組みにトライしていきたいです。
――ありがとうございました。ビジネスモデルや現場の効率化など、さまざまな新しいことに取り組まれているルーヴィス様。今後もぜひ、THETAをお仕事の現場で便利にご活用ください!
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