海外のロックダウンの影響で、給湯器の納期遅延が深刻化しています。しかし「コロナだから仕方ない」で済ませてしまうのは、クレームを生む原因になります。弁護士の秋野卓生さんに、工務店が取るべき対策を寄稿していただきました。
住宅設備機器の納品遅延問題
新型コロナウイルスの感染拡大により、様々な住宅設備機器の納品遅延が問題となりました。初期の2020年春頃には、中国におけるロックダウンの影響により、ITクッキングヒーターなどの納品遅延がありました。
あの頃は、新型コロナウイルスへの恐怖心から、施主も納期遅延を納得してくれていたと思います。それから「ウィズコロナ」や「コロナと共生」という言葉が使われ始め、感染対策を徹底しながら経済の回復も果たしていこうという機運のなかで、今、問題となっている給湯器の納品遅延といった問題について「施主が納得感をもって応じてくれるか?」という課題を考えていかなければなりません。
給湯器納品遅延は頭が痛い
これから寒くなるシーズンに建物引き渡しをしていく場面において、給湯器の納品遅延は非常に頭が痛い問題です。
建物が完成し、引き渡しをしようにも、お湯が出ないのでは、お風呂に入れないわけで、その引き渡しの手続き(工務店的には最終代金の支払いを受けること)に影響が出てくるのです。
今回の納品遅延の原因は、工業化が進むベトナムに自社工場や取引先を持つ給湯器メーカーにおいて、ベトナム政府が実施した社会隔離措置(ロックダウン)により、生産がストップした影響が出ているものであり、法律論でいえば、不可抗力に該当すると思われます。
しかし、お湯が出ない家に住むことを要請される施主にとって、何ら金銭的な補償もなされないまま「我慢せよ」と言われるのは、納得感が得られない可能性があり、実は、最近、こういった小さな「納得がいかない」事象が積もり積もって、クレームに発展するケースが増えているのです。
「コロナ起因だから仕方ない」という対応はよくない
ウッドショックの影響で住宅価格が上がるかもしれません、工期が遅れるかもしれませんといったリスクを覚悟で住宅建築に挑戦している施主に対して、他人事のように「コロナ起因で、またリスクが増えました」という態度で説明をすることは、トラブルリスクが高いので、気を付けていただきたいと思います。むしろ「困難を共に乗り越えて行きましょう!」と手を携えていく態度・姿勢が肝心です。
安易な利益圧迫は防ぐ
工務店さんからの法律相談を受けていると、給湯器についても手に入る高額商品を確保し、値上がり分は自社で吸収してしまっている事例も聞きます。ウッドショックでも値上げ分を施主に請求できずに利益を圧迫している工務店も多いはずです。
しかし、これでは、仕事をすればするほど、赤字幅を大きくしかねない事態であり、大変危惧をしています。最低限の利益は確保し、倒産リスクは何としても避けなければなりません。
とるべき対策
例えば、給湯器の納品遅れで、施主一家が、銭湯に通うことになった場合、ノーペナルティーで全て費用は、施主持ちでお願いしたいというのは、信頼関係に亀裂が入ります。
私は、請負契約約款の遅延損害金の利率を「未完成部分の10%」程度にミニマムにし、給湯器の価格×10%×遅延日数/365日程度の金額は、「本来、不可抗力となりますが、当社も契約約款で定めた遅延損害金の範囲で負担をさせていただきます。」と申し述べ、寄り添う姿勢を示すのはいかがでしょうか?
また、いったん、中古品の設置をし、後日、新品が入荷となった際に、取り換えをする。この中古品は、アパート・オーナー向けの商品として準備しておくという方法も「あり」だと思います。
2020年に施行された改正民法では、給湯器故障は、家賃減額事由ですので、アパート・オーナーは、一刻も早く故障した給湯器を修理したり取り替えなければなりません。この対応ができないことは、家賃収益が減ることを意味するので、アパート・オーナー用に中古在庫を手配しておく意義は大きいのです。
信頼関係の構築こそ最も大事
通常、工務店と施主との信頼関係は、「建物の安心・安全」という請負契約の目的物を対象にして議論してきました。他方で、今、請負代金の不安定性に起因するトラブルも増えており、また、納期遅延といった頭の痛い課題も出てきています。
しかし、こういった困難に直面した時こそ、三方良しの打開策を検討し、皆が手を携えて前に前進することが大事です。この困難を施主と手を携えて乗り越えた先に、強固な信頼関係の構築という成果につながるように、対策を共に考えていきましょう。
匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与。2018年度より慶應義塾大学法学部教員に就任(担当科目:法学演習(民法))。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書を手掛ける。一般社団法人日本建築士事務所協会連合会理事・法律顧問弁護士。一般社団法人住宅生産団体連合会消費者制度部会コンサルタント。
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