新建ハウジングは12月17日、「住宅業界大予測フォーラム2022」を開催する。年末の総決算となるこの日は、アウトドアメーカー・スノーピーク3代目社長の山井梨沙さんと、新建ハウジング発行人の三浦祐成によるスペシャル対談を実施する。申込者限定の独占配信だ。
山井さんが考える住まいと暮らしの原風景や住宅への想い、多様性のある生き方、これからのライフスタイルを語ってもらうと共に、スノーピークが掲げる「野」×「衣」「食」「住」「働」「遊」を通じた価値提案の根源に迫る。工務店との協業や住生活関連への今後の事業アプローチなどについて、ともに未来志向で考え、その先を展望していく。
今回のスペシャル対談を受けて、2021年1月10日の本紙新春特別号に掲載した山井さんのインタビュー記事を全文公開する。
〈※掲載情報は取材時のものです〉
日常に自然を取り込む暮らし、庭遊びを楽しめる住まい―――。
新型コロナの影響によって急速に広がるこうしたライフスタイルや価値観を、コロナ以前から提唱し続けてきたのがアウトドア総合メーカーのスノーピーク(新潟県三条市)だ。同社が事業の根幹に据える「人間性の回復」は、ニューノーマル時代の企業経営の1つの羅針盤にもなり得る。昨年、同社の代表に就任した山井梨沙さんは、事業パートナーとして地域の工務店と手を取り合いながら、自然と共生する人間らしい生き方や暮らし方を、より多くの人たちに届けていきたいと理想を描く。【聞き手・編集部】
人間性の回復―。私たちスノーピークは、これを根幹に事業展開している。自然の中で生きることで「野生」や「人間性」が取り戻せるという揺るぎない信念がある。文明が発達し、何不自由のない世の中になった。娯楽が溢れ、家の中に居てもボタン1つで人、そして世界とつながり、何不自由のない日常を過ごすことができる。私もそれを享受している1人だ。
ただ、テクノロジーは利便性を加速させるが、それに触れ続けると、身も心も自然との距離が開いていく。時代や環境の移り変わりで、食や住環境も変化し、細胞レベルで身体的にも精神的にも影響が出てきている。それが積み重なると人間らしさが損なわれていく。家族や大切な人と集い、太陽の光をたっぷり浴び、自然の恵みを受けた食材を調理し、食卓を囲み、ご飯を食べる。ひと昔前には当たり前だった日常が、人間らしい日々が、失われつつあった。
だが、新型コロナの世界的な流行により、人間社会や自然の豊かさ、自らの暮らし方そのものを見つめ直す人が増えた。家族や友人との関わり合いや自然の中で人と人がつながることこそが心地よさ、豊かさであり、人間が本能的に求めていることだと思う。
風土に育まれた伝統技術は宝
当社はアウトドア用品メーカーでありながら、コミュニティーを創出するブランドでもある。キャンプや「アーバンアウトドア」などを通じて、人と自然、人と人をつなげていく。その営みの中で信頼関係が結ばれていけば、社会問題すら解決できると考えている。生きることを豊かにしていけるキャンプの価値観をベースに、人生や世の中を豊かにしていける会社でありたい。私たちはキャンプの持つ力を心から信じている。
ものづくりをしていて感じるのは、経済合理性を重視して海外から材料を輸入したり、国外に生産拠点を移したりすることによって、どの産業も地域に根付いていた職人がいなくなっているということ。スノーピークには地元の燕三条エリアの職人たちの力が欠かせない。風土によって育まれた唯一無二の伝統技術は宝だ。私たちはローカルに根付くその価値を後世
に残すことも使命の1つだと考える。
アーバンアウトドア事業で全国の地域工務店と協業する中で、私たちと同じ価値観と熱いパッションを感じる。地域から工務店や大工がいなくなったら、本当に終わりだと思っている。衣食住の根源的なライフバリューを提供している点は共通しているし、親和性が高い。現在は「SIS(ショップインショップ)」による連携が中心だが、今後は、また違った形で共に価値創造ができると考えている。
新潟市内の和納地区にある約6600坪の住宅用地で2022年春ごろの完成を目指してまちづくりを進める。まちや暮らしのコンセプトづくり、全体のランドスケープを手掛けながら、焚火ができるアウトドアリビングの空間を監修し、提案する。まちが完成した後も、住民のアウトドアライフのサポートを行っていく構想だ。
新潟の古民家をリノベし東京との2拠点生活
一昨年、故郷の新潟県内に古民家を購入して大規模なリノベーションを行い、昨年12月に引っ越し、東京と新潟の2拠点生活をしている。自宅ではあるが、社員が気軽に泊まりに来たり、民泊施設として運用したりできるよう検討を進めている。1階にある囲炉裏やたたき土間で、火を囲んでコミュニケーションするなど、訪れる人に田舎暮らしの素敵さを満喫してほしい。
モノの開発だけではなく、「衣食住働遊」という5つのテーマで自然を感じる価値を創造し、多くの人に体験してもらいたいと考えている。自然と共生する人間らしい生き方や暮らし方を提案する。それを実現するために、価値観を共有できるパートナー工務店と手を取り合いながら、挑戦を続けていきたい。
スノーピーク代表取締役社長。1987年、新潟県生まれ。祖父は同社創業者の山井幸雄、父は代表取締役会長の山井太。文化ファッション大学院大学で舞台衣装づくりを専攻し、ドメスティックブランドに約3年間勤務。2012年、スノーピークに入社し、アパレル事業を立ち上げる。その後、アパレル事業本部長、企画開発本部長、代表取締役副社長を経て、2020年3月より現職。
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