歴史のある組織は、却ってその歴史にとらわれてしまうこともある。斎藤工務店(神奈川県横須賀市)は、6年前、三代目となる草野康仁さんの社長就任を契機に、家づくりのスタンスを一新。構造や温熱環境など、性能向上に取り組みながらも、現代の生活者が重視する「感性」を自社の家づくりに取り込めるよう、デザイン力も磨き「生活者に求められる工務店」を目指している。
ニーズに応える提案力習得が課題に
同社は、大工工務店として1974年、横須賀市内で創業。“良い仕事をする工務店”と認められ、大工の腕を生かした家づくりをこつこつと続けていた。しかし、バブル崩壊やリーマンショックの影響を受け、業績が落ち込んでいったという。
また、顧客層も大きく変化した。大工の腕を生かした木の家づくりは、一定の評価を得ており「ひいきのお客様」も多かった。一方、今の生活者は「自分に合った家」を求める傾向があり、“付き合いがあるから”といった理由だけで、工務店を選ぶことは少ない。
草野さんは、社長就任にあたり「顧客に求められる工務店」になることを目標に掲げた。顧客が求める家を提案できる力を「工務店力」と考え、まずは自社の技術力を磨くことから始めた。
草野さんは、住宅省エネルギー技術講習会や耐震診断資格者講習、佐藤実さん(Mʼs構造設計)の「構造塾」、パッシブハウスジャパンなど、さまざまな講習や勉強会に参加。「社長だけが参加するのでは不十分」と考え、社員とともに受講したこともある。
社長自らがコストを管理する
また、コスト管理も草野さん自身が監督するようにした。予算、発注書などを全て、草野さんがチェックし、1棟当たりの単価を全て把握しているという。ミスや、複数の部署をまたぐことによる無駄を省くのがその狙い。社員も「社長に見られるものだから」と意識が変わったそうだ。
年間12棟~15棟の新築に、リフォームなども含めると、同社が抱える案件は年間500件近くに上る。一人でチェックするのは大変そうだが、草野さんは「年間売上が7~8億円程度の会社なら、ひとりでも十分できる」と話す。
i-worksでデザイン・仕様の基礎固め
会社全体で技術の習得、向上に取り組んできたが、一定のレベルに達してみると「手を広げすぎた感もあった」(草野さん)。地域工務店として「気候に合ったいい家」をつくるためには、性能はもちろん、デザイン力も不可欠。次のステップとして、設計力のブラッシュアップに着手し、建築家・伊礼智さんが監修する規格型住宅「i-works」の加盟店となり、伊礼さんのデザインを自社の設計に取り込んでいる・・・・
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この記事は、『新建ハウジング別冊・ワンテーママガジン9月号/がんばる地場工務店』(2020年8月30日発行)P.28~に掲載しています。
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