コロナ禍を経て、住まいに対する生活者の価値観が変化していることも踏まえ、あらためて地域工務店にとってのリノベーションの市場の可能性と、その中でどのように事業展開していくべきかを考えたい。
全国の工務店を対象に、戸建てリノベーション事業の立ち上げを支援するコダリノ研究所(横浜市)代表でチカラボ・マイスターの稲葉元一朗さんに話を聞いた。
戸建てリノベ市場と工務店の位置づけ
広義のリフォーム市場には、修理・修繕、水まわりリフォーム、外壁・屋根リフォーム、LDKリフォーム、戸建てリノベーションまで、大きく分けて5つの事業領域が存在している。各事業領域を専門で請け負うリフォーム会社もあるが、多くは総合リフォーム業としてあらゆる規模の工事を請け負える体制を持ち、多数の企業が乱立している状況だ。
5つの領域の中で価格帯として最上位にあたるのが戸建てリノベーションの市場。これまで住友不動産の「新築そっくりさん」や、住友林業ホームテックの「旧家・古民家リフォーム」などで知られるハウスメーカ―系が独占していた。近年こうした状況に風穴を開ける存在になっているのが地域工務店だ。
新築で長期優良住宅を標準化している地域工務店は、温熱や構造など基本性能を向上させる設計・施工力はもちろん、自然素材を多用したり、造作の家具・建具のつくり込みができるなど、むしろハウスメーカーには追求できない特性を持っている。戸建てリノベーション市場で地域工務店ならではのポジショニングを確立しており、今後もその傾向が強まっていくはずだ。
YouTubeなどの動画配信コンテンツが充実し、家づくりの情報を収集できる環境は一気に拡充している。コロナ禍の影響もあって、住まい手のリサーチ力が高まり、優良なつくり手を見つけやすくなっている。昨年2020年リフォーム売上上位10社のうち、家電量販系2社を除いたハウスメーカー系8社の売上合計は前年比で10%ほど落ちている。私はこれを地域工務店の台頭を裏付ける数字と見ている。
工務店の強みを生かす「実家リノベ」への対応
戸建てリノベーション領域における地域工務店の優位性として考えられるのは、①建築の知識と施工力、②自然素材(無垢木材・珪藻土・漆喰など)を取り扱える流通と職人手配の力、③性能へのこだわり、④感性に訴えるデザイン追求(おしゃれとは違う)。これらは、ハウスメーカーが容易に追いつけない、地域工務店ならではの強みと言える。
現在、戸建てリノベーション領域の主要な顧客層になっているのが「実家リノベ」。住宅ローンが終わった親世帯と、賃貸住宅に住む子世帯が費用を出し合って二世帯住宅のリノベーションをする。土地と建物はすでに所有しているので、親子世帯の予算をあわせて、余裕を持った建築費用を確保でき、新築同等の2000万円台を超える発注が一般的。感覚的には、東京・神奈川など都心部より、地方のほうが再現性が高い。特に北陸地方は需要が多い傾向がある。
親子ともに情報収集力は高く、断熱や耐震など性能向上を高めるニーズが非常に高い。老朽化した実家をリノベか建替えかを客観的にアドバイスできるのも、2事業を並行して持つ地域工務店の強み。さらに既存の住まいを生かして住み継いでいきたいという施主の想いを汲み取れる設計の丁寧さも求められる。こうした窓口は、ハウスメーカーもリフォーム専門会社も、なかなか対応できていない。
新築で G2・耐震等級3をこなせる力が前提条件
戸建てリノベ―ションの領域で実績を伸ばせる工務店は、新築で長期優良住宅を標準化させ、温熱でHEAT20・G2、構造で耐震等級3を狙える設計・施工力を持っている会社が前提となる。新築でこだわりを持つ工務店は、その提供価値をリノベにも展開することで新しい需要に応えることができる。中長期的には新築需要の減少傾向に対して早めの対策が取れる。技術力を磨いてきた工務店にとって、自社の経営資源を生かせる環境が整ってきたと言える。
同じ工務店でも、どのようなリノベーションを特徴とするかは、新築仕様のこだわり、社員スタッフの個性、経営者の理念や、会社のDNA、商圏の顧客ニーズなどによって異なり、最適なものを見つけていく必要がある。
参考までにマーケティングの視点で考えると、日本全国に商圏人口30万人程度を確保できるエリアが200ほどあるが、・・・・
【残り3033文字、図・写真5点】
この記事は、『新建ハウジング別冊・ワンテーママガジン11月号/工務店らしいリノベーション戦略』(2021年10月30日発行)P.6~に掲載しています。
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。