ピンポイントのこだわりを満たす
「今の」お客様と特に言うのは、昔とは確実にものの考え方が変化しているからです。
思えば、昔の家づくりは、昔の結婚式と同じロジックでした。結婚式は一生一度の晴れ舞台だから、ゴンドラ乗ってスモーク炊いて、白無垢も着たいウエディングドレスも着たい、お色直しは最低3回、ケーキの高さは1メートル!と、あれもこれも「全部入り」で、数百万かかっていました。それができなければケーキの上側がプラスチックになったり、安いレンタルのドレスにしてでも、「全部入り」をなぞろうとしていました。
今はどちらかというと「立派」とか「人並み」より「自分らしく」がキーワードですから、たとえば式典にはこだわらないから、会費制で本当においしいフレンチをみんなで楽しみたい、とか、レンタルでない自分だけのドレスが欲しいから、センスの合うドレスメーカーを探して自分好みのドレスを仕立てる代わりにお色直しはしない、とか方向性にパターンはあるにしても、こうでなければ、という定型は薄れ、多様化してきています。
家を建てるときも、同じです。
「一生一度」「せっかくだから」までは昔と同じですが、昔よりも買い物上手になっているのです。
買い物上手というとお気楽に聞こえますが、言えば冷静に損得の判断ができる、手強いユーザーになってきているということです。お仕着せの全部は要らない。けれど、自分の欲しいものについては高いクオリティを求める。そういった客です。
その背景には日常が豊かになって「ハレ」と「ケ」の差が弱まり、結婚式も家を建てることにも、昔ほどの気負いがなくなってきているという流れがあります。家さえ建てれば一人前、から車の次に高い買い物、くらいの位置づけで家を建てる。一生一度のことであっても、浮つかない。豊かな日常の延長線で判断することができる人が、増えてきました。
工務店の方と話していると、よく「今の客は難しい」と言われるのですが、別に難しくはないのです。お客様が昔と変わっているのにつくり手の考えが変わってないから、そう感じるだけのことです。
すべてお任せ「全部入り」でよろしく、というお客様は今でもいますが、ごく一部の話です。大抵は、予算が限られているから、家としての必要な条件を満たしたら、こだわりをかなえたいのはピンポイントになる。
これまで「全部入り」のお仕着せしか作ってないから、必要なもの「だけ」が欲しい、欲しくないものはむしろいらない、というお買い物上手、暮らし上手になった今のお客様の考え方が難しく感じられる。
でもこれは、気づきさえすれば、変えていくことができます。基本の技術はあるのですから。
まずは全力で自分の「素ラーメン」の完成に挑むことをお勧めします。
藤本 修(ふじもと・おさむ)
大手ハウスメーカーの営業などを経て香川県で工務店アンビエントホームを起業。その後そのノウハウを提供する「アンビエ ントホームネットワーク」を設立。さらに顧客管理 システムを外販するCRMを立ち上げた。現在は工務店の指導・講演で飛びまわる。
抜粋を新建ハウジングプラスワン2012年5月号に掲載しています。
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