ヴァルト(本社・長野市、小野治社長)の社名はドイツ語で森を意味する「Wald」が語源。「森が持つ無限の心地よさを住まいの空間に再現したい」という願いが込められている。社長の小野さんの実家は長野県を代表する温泉地・湯田中(山ノ内町)の老舗旅館。観光事業を学ぶため訪れたヨーロッパで、環境に優しくしかも快適な現地の暮らしに魅せられた。家づくりは、日本の常識にとらわれることなく、常に世界を視野に「少ないエネルギーでより環境に優しい家」を求め続けている。
ヴァルトの本社は1990年の創立以来、住宅展示場を併設してきた。この間、住宅技術の進展とともにリフォームを重ね、現在の展示場は樹木に囲まれた環境のなかでパッシブハウス並みの高断熱・高気密仕様、省エネルギー、快適性を兼ね備えたモデルとして来場者に高い評価を得ている。特に寒冷多雪地域を活動エリアとする同社は「冬の暖房費をいかに低減するか」で、自社の強みを発揮する。
『空気は食べ物』が輻射熱暖房の原点
「欧米では、暖房は建築構造の一つと考えられ、構造とともに進化してきた。一方で日本の住宅は、いまだ『寒さは我慢が美徳』とされており、悲惨な状況が続いている」と小野さんは語る。
そんな小野さんの性能の流儀は、「暖房にエアコンは使わない」こと。『空気は食べ物』というドイツのことわざを挙げ、「ドイツではこの考えが輻射熱暖房の原点と言われる。そういった観点から、日本のエアコンのあり方は、空気を暖めることで、人が毎日呼吸する食べ物を、いたずらにいじり回しているように感じてしまう」とエアコンを使用しない理由を説明する。
同社の住宅では、ヨーロッパ型の輻射暖房に倣い、パネルヒーターを導入。小野さんの「輻射暖房は断熱材と密接な関係がある」との考えから、断熱材についても日本ではまだ採用例の少ないスイス製断熱材「パヴァテックス」などの木質繊維断熱材を複合的に使用している。
パネルヒーターは放熱器に比較的低温の温水(従来60℃以下、ヴァルトでは30℃前後)を循環させることで部屋や建物全体を温める方式だが、不快な送風がなく空気汚染の可能性がないほか、部分的に生じる寒い箇所がないのが特徴だ。しかも低温なので省エネというメリットも見逃せない。
「エアコンで24℃設定の体感を得るためには・・・・
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この記事は、『新建ハウジング別冊・プラスワン12月号/性能の流儀』(2018年11月30日発行)P.28~に掲載しています。
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