秋田県の工務店・もるくす建築社を率いる佐藤欣裕さんの流儀は、「真理にたどり着く道のりを断定しない」こと。建材もプランも設計も多彩、その土地に合った案件ごとの「最適解」を導き出す。標準化しているのは、水切りの納まりやビスなど細部のみ。UA値0.3W/m2Kを切るような高い性能であっても、それは家づくりのスタートラインの位置づけで、常に「施主の快適な暮らし」を明確なゴールとして設定する。それに向けた段階的な思考プロセスによる家づくりを徹底している。
〈※掲載情報は取材時のものです〉
数値より体感
「性能値が高い=良い家ではない」と言い切る佐藤さん。同社の住宅は平均でUA値は0.3W/m2Kを、C値は0.3cm2/m2を切るほどの性能を有するが、それは目指すべき最終目標ではなく、あくまでボーダーラインだ。「大切なのは、外部環境のエネルギーをいかに自然に取り入れ、そしてそれをどう生かすか」と佐藤さんは話す。
佐藤さんの家づくりのアプローチは、その土地の特性を “五感で” 読み取ることから始まる。顧客とのやり取りが始まると、晴天や曇り、小雨など天気が異なるたびに候補地を何度も訪れる。湿度などを数値として割り出すこともできるが、それよりも大切にしているのが、自身の「体感センサー」だ。風の流れ、日の当たり方、景色の見え方、全てを体感して記憶に写し取る。
さらに「近隣に住んでいる人に声をかけ、風の吹き方だったり湿気だったり、その土地の住人のリアルな感覚を把握する」と言い、まだ土地が決まっていない施主の場合は、希望する暮らしにフィットする土地がどれかをアドバイスすることもある。
「この段階が快適な暮らしをつくる上で最も重要な工程」と佐藤さんは説明する。2016年5月、秋田県大仙市内に完成させた自邸の建築では、自然豊かな周辺環境、太陽光発電パネルを地面に設置できる、崖地に面するといった条件を備える土地を探すのに1年以上の時間をかけた。川と林が眼下に広がる見事な眺望だ。
大仙市は盆地にあり、夏は40℃以上まで気温が上がり湿度も高く、冬は雪が積もり、日射率が低い。年間を通じて住宅の快適な温熱環境を確保するのが難しそうな地域にも感じられるが、佐藤さんは「そもそも日本では、北海道と沖縄以外は “蒸暑寒冷地” と捉え、最初から、どの季節にも対応できるという観点で家づくりを行うべき」と意に介さない。
土地から導く最適解
同社の設計までのプロセスを段階ごとに大きく分けると、①土地選び(気候決定)→②周辺環境→③敷地内建築計画→④建築的手法→・・・・・
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この記事は、『新建ハウジング別冊・プラスワン2018年12月号/【特集】性能の流儀』(2018年11月30日発行)P.24~に掲載しています。
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