今回は火災で燃えた賃貸住宅の住戸を、復旧させるためのリフォームの事例を見ていく。建て主の代理人である管理会社(不動産会社)の声を中心に、その実情をレポートする。
住宅の火災は全国で年間1万件程度。その3分の1が共同住宅だ。火元は圧倒的にたばこだ。今回紹介する火災の事例は、千葉県長生郡一宮町に建つ、築18年の鉄骨造のアパートだ。住人は40代の女性で、夜中にたばこの火がついたまま外出し、数十分後に帰宅したところ部屋が燃えていたという。幸い火は自然鎮火し、隣戸への延焼はなかった。建物を締め切って出掛けたので、酸欠になって自然鎮火したようだ。
このアパートの大家は遠方に住んでいるため、火災の対応やリフォームは管理担当である不動産会社のサンオフィスが行うことになった。担当した代表の鶴岡亮輔さんは、「不動産業に従事して15年になるが、管理物件が火事になるのは初めて」と話す。今回の火災による損害は、賃貸スペースのリフォーム費用と賃借料の利益損失だ。火災で部屋が使用不能になると賃貸借契約の現状復帰条項に対する違反になるため賠償責任が生じる。この過失に備えて入居者は借家人賠償責任保険に加入する。この保険でリフォーム費用は賄える。加えて大家は火災保険に加入しており、ここからも復旧費用が支払われる。復旧に際しては十分な保険金の支払いが見込まれた。一方、利益損失に関しては、「失火責任に関する法律」により、重大な過失がない限り、火元は類焼先の損害を賠償しなくてよく、入居者は免責となる。
鶴岡さんは保険金を受け取るために動いた。まずは消防署で罹災証明書を発行してもらうための申告書を提出。1週間程度で罹災証明書が発行された。同時に入居者の退去を段取り。契約期間内だったが、別の賃貸住宅を紹介し、すぐに引っ越してもらった。鶴岡さんは同じアパートに暮らす住民にヒアリングを行った。火災が起きたのが夜間ということもあり、同じアパートの住人たちは火災に誰一人気が付いていなかった。そして火災を知っても特に動揺もなかった。「台風などほかの災害のときでも、賃貸住宅の入居者は被害の当事者以外は淡々としている。気にするのは事故物件くらい」と鶴岡さんは説明する。
罹災証明書が届き、鶴岡さんは保険会社に保険金を請求する。同時にリフォーム費用の見積もりを依頼した。今回は近隣の工務店である菅沼建築設計に声を掛けた。「現状回復や軽微なリフォームであれば、リフォーム専業店に依頼したが、建物をどのように直すべきかというところから相談したかったので、一級建築士である菅沼悟朗さんに相談した」と鶴岡さんは説明する。
火事の復旧は割高になる
菅沼建築設計・代表の菅沼悟朗さんは早速、現地を調査する。火事の跡は生々しかった。室内は煤だらけでユニットバスの端まで真っ黒。カーテンレールは熱が上に行って天井に当たって横に広がり、カーテンレールのフックが飴のように溶けていた・・・・
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この記事は定期購読者限定の記事です。続きは、『新建ハウジング別冊・プラスワン5月号/断熱リフォームへのアプローチ P.30~』(2020年5月10日発行)に掲載しています。
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