「このままでは地元の業界が消滅する」
田園都市設計の大西泰弘さんは、土壁の「長期優良住宅」にチャレンジした理由をそう話す。
本来、家づくりは地場産業だ。が、現在は全国大手が市場を席巻。建材・設備メーカーの既製品が普及し、材料自給率も下がった。乾式工法によって職人の労務比率も低下。いまや家1棟を建てても、県産材を使わなければ地元に落ちるお金は総額の5割に満たない。
有力な木材産地のない香川県にとって、地域由来度の高い左官工事の比率を高めることは、地元活性化の一つのカギだ。
「『長期優良住宅』がよいと考えたわけではない。が、地元のつくり方に合わないといって敬遠していたら、その指標はいつまでも足かせのまま。普通に手に入る自然材料と技術、すなわち土壁でもできることを示し、短所を長所に変えて訴えていかなければ、いまの衰退を止められない」
高度成長期以降の住宅ラッシュにのり、香川県内の土販売業者や竹販売業者は一時隆盛を極めた。平成初期までは土壁の家が多く建てられ、1カ月20棟超をこなす業者もあったという。
それが阪神大震災で急転換した。「一番の要因は性能の裏付けを伝えられなかったこと。大手による性能重視の売り込みに打つ手がなく、土壁は『寒い』『弱い』などのイメージが定着、一気に乾式化が進んだ」と、竹小舞から荒壁を手がける平口竹材店(香川県観音寺市)の平口照明さん。ピーク時に13人いた職人は現在6人、その稼働率もけっして高い水準にはない。
今回のプロジェクトは設計者の大西さんが運営を統括。大工を中心とした職人チームをまとめ、材料の拾い・調達から設計・施工までを一元管理して品質・工期・コストをコントロールした。いわゆる「CM方式」だ。
「地元の材料と技術でつくることは、逆にいえば性能品質の証明と確保が面倒。下手をすればクレームにもなる。それゆえ設計事務所や工務店に敬遠されてきた。が、そこをマネジメントしなければ職人は浮上できず、地域の復興もない」と大西さんは説く。
家族3人が住む「土壁の家」は木造平屋延べ約27坪。3間×4間の建物を2棟連ねたシンプルな形状により構造の安定を図った。部材寸法も絞り込み、梁・桁と垂木は6mと4mの定尺材。特注コストを抑え、かつ、木のきれいな表情があらわれるよう融通を効かせて木配りしている。
土壁でネックとされる性能は、一つが断熱だ。ここでは竹小舞に荒壁をつけ、外から裏返し塗りして凹凸を調整したところに厚25㎜ のフェノールフォーム断熱板を充てん、柱の内内で納めた。その外に木摺りを打ち、ラスモルタルにハンダと砂漆喰で下地をつくって土佐漆喰で仕上げている。
[詳細は新建ハウジング2012年4月10日号で]
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