高断熱化は耐震と並ぶ性能設計の核であり、耐久性に影響するほか、災害時にインフラから断絶された状態での避難生活を可能にする。一方、高断熱化に際しては施工の確実性と省力化が求められる。ここでは、梶原建築(山梨県富士吉田市)の「塩出ケ崎の家」を例に、施工の課題の解決手法と大型パネルの可能性を見ていく。
梶原建築代表の梶原高一さんは、元請けと現役の大工という2つの視点から断熱施工の合理化を進めている。同社の断熱性能の基準はUA値0.3W/m2K前後。この性能値を出すために試行錯誤を行っている。
足元の断熱は基礎断熱だ。ベース下にEPS100mm厚を敷き込んだ上で、立ち上がりの内外にEPS60mm厚を施工する。梶原さんが考える課題は、施工の合理化だ。これまで鋼製型枠に断熱材をセットして打ち込みとしていたが、防蟻断熱材のパフォームガードを捨て型枠とする工法を「塩出ケ崎の家」では採用した。
梶原さんが活動する富士吉田市は最低気温が-10℃まで下がり、凍結深度が深い。根入れが深くなると、コンクリート打設時に捨て型枠を兼ねる断熱材に掛かる力が増し、基礎がはらむ可能性がある。そこで断熱材の外側を通常のバタ角補強に加え、埋め戻して土圧で抵抗させる方法を用いた。型枠兼断熱材ははらむこともなく、きれいに打ち上がった。
壁の断熱の課題
壁の断熱は面積が多いため、断熱材の使用量も多く、施工手間も掛かる。梶原さんの第一選択肢は高性能グラスウールだ。材料自体は安価で厚みを増して性能を高められ、施工性も悪くないためだ。「唯一気を使うのが施工時に濡らさないことだが、躯体を濡らさないのは木造の基本でグラスウールに限ったことではない。それを踏まえるとグラスウールは利点のほうが多い」と梶原さんは説明する。
UA値0.3を実現するには付加断熱は不可欠だ。付加断熱は断熱層が二重になる以上の手間が掛かる。まずは下地材の取り付けだ。特に高性能グラスウールを用いる場合、断熱材を支える下地材を長いビスで躯体に取り付ける作業が発生する。下地材の施工中の降雨も気になる。この期間に雨が降ると構造用合板が濡れる。下地材の施工前に透湿防水シートで構造用合板を覆えば雨を防げるが、雨が降らなければ合板の上の透湿防水シートは無駄になる。
雨の心配は断熱材の施工時にもついてまわる。高性能グラスウールの充填時にゲリラ豪雨などに降られたら断熱材がだめになる。断熱材の施工の間、管理者は気が休まらない。
グラスウールをパネルに組み込む
これらを解消する手段として、梶原さんは大型パネルに充填断熱を組み込むことを試みた。大型パネルはウッドステーション(千葉市)が提供する構造一体型のパネルで、最低限のルールのもと、オーダーメードで工務店ごとの仕様に応えている。
梶原さんは以前から大型パネルに注目していた。現場の人手不足は深刻で、長期間拘束することを職人が快く思わない。大型パネルによる短工期化は、手離れをよくしたい職人にも歓迎される。重い物を担ぐ作業が減ることで年配の職人の効率も高まる。元請け目線で見ると経費も節約でき、現場のゴミも削減できる。
この大型パネルの利点を最大化することについて、「現場施工を減らせるだけでなく、パネルに多くの要素を詰め込むことで、運搬効率が高まる。結果として運搬費の削減にもなる」と梶原さんは説明する。
だが大型パネルは、・・・・
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この記事は定期購読者限定の記事です。続きは、『新建ハウジング別冊・プラスワン3月号/令和流・高性能住宅~いま求められるレジリエンス性能~ P.50大型パネルで高断熱化の課題を解決~』(2020年3月30日発行)に掲載しています。
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