国土技術政策総合研究所(国総研)の「木造住宅の耐久性向上に関わる建物外皮の構造・仕様とその評価に関する研究」(報告書)のなかの屋根の耐久性に関する項目について、エーシャギー(東京都江東区)の安達智さんに意見を伺った。安達さんは管理者、職人、工法開発などさまざまな立場から屋根を含む外装に関わってきた。現場をよく知る立場からみた屋根の耐久性に関する見解をまとめる
屋根防水=下葺き材
屋根の防水のことを「雨仕舞い」という。なかなか味わい深い言葉である。「仕舞い」という言葉には「ケリを付ける」という意味がある。昔の日本の住まいでは雨漏りが常態化していたことを伺わせる表現だ。
現在も雨漏りの事故事例は少なくないが、その多くは外壁からで、屋根から雨漏りする比率は比較的少ない。屋根からの雨漏りが減ったのはアスファルトルーフィングなどの下葺き材が普及したためだ。意外と認識されていないが、雨仕舞い=屋根防水の主役は屋根材ではなく下葺き材だ。瓦を筆頭に多くの屋根材には隙間があり、強風時に必ず水は入る。その水が屋内に浸入しないように防いでいるのは下葺き材なのだ。
言い換えると下葺き材が傷んだり、劣化したりすると雨漏りが発生してしまう。雨漏りしない耐久性の高い建物にするには、下葺き材の選定と正しい施工が大前提となる。
ここでポイントとなるのが、建物が引き渡された後に下葺き材の健全性を確かめる方法はないということだ。
下葺き材は屋根材で覆われているため、下葺き材の現況を確認するには、屋根材を撤去する必要がある。屋根材は下葺き材が張られた野地板に釘留めされていることが多い。屋根材を撤去するということは、屋根材を留めていた釘を抜くということだ。そうすると下葺き材には多数の釘穴が発生してしまう。こうなると下葺き材の防水性はなくなってしまう。
屋根に覆われていると下葺き材は見えない。屋根を外すと下葺き材の防水性能は失われる。では下葺き材の状態はどのように把握すればよいのか。
それが定期的に小屋裏に上がって野地板を点検し、雨漏りの跡がないか確認することだ。雨漏りの痕跡があればルーフィングが傷んでいることが予想され、屋根材を外して下葺き材から葺き替えるなどの補修を行うことになる。
小屋裏から野地板を確認することの重要性については、「報告書」にも書かれている。小屋裏点検口を設け、はしごを設置するなど昇り降りしやすい構造にしておくことが重要だ。
ルーフィングは30年もつ
ここからは安達さんの見解を中心に、下葺き材や屋根材、各種の工法について、耐久性の観点から評価していく。
まずは下葺き材の評価について聞いていく。現状使用されている下葺き材の9割がアスファルトルーフィングか改質アスファルトルーフィングとなる。まずはこの2つの材料について簡単に説明する。
両素材とも防水性を保たせているのはアスファルトだ。この素材は原油を精製して石油製品を製造する過程で最後に残った残油である。このアスファルトを基材(原紙)に含浸させ、両面にさらにアスファルトをコーティングし、鉱物質粉粒を付着させたものをアスファルトルーフィングと呼ぶ。
アスファルトルーフィングの弱点は高温で軟化しすぎることと、低温で割れやすくなること。それを解決するために、アスファルトにポリマーなどを添加し機能を向上させた。それが改質アスファルトルーフィングで、「ゴムアスファルト(ゴムアス)」とも言われる。また、原紙を使用したアスファルトルーフィングは風にあおられたときに破れやすいなどの問題があったので、改質アスファルトルーフィングでは、原紙を合成繊維の不織布で補強したり、基材そのものに合成繊維の不織布を用いる手法が取られている。また、アスファルトの油分が飛びにくいようにアスファルト層の上に塗装している製品もある。
一般的にアスファルトは50℃を超える高温になると軟化流動し、釘穴周りの隙間を塞いでくれる。一方、10~20年といった長期間高温に曝されると、アスファルトは徐々に硬化して脆くなる。この状態になると釘穴周りを塞ぐ機能は期待できない。
実際の使用状況における耐久性はどうだろうか。・・・・
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この記事は定期購読者限定の記事です。続きは、『新建ハウジング別冊・プラスワン2019年12月号 【木造住宅「耐久性向上」のレシピ】下葺き材と瓦屋根の耐久性 P.50(オンラインで読む場合はP.52)~』(2019年11月30日発行)に掲載しています。
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