モルタル外壁は数十年前には最も一般的な外壁工法であった。サイディングに押されてはいるが、今でも一定の市場がある。今回はモルタル外壁の耐久性の評価とその代替工法である湿式外断熱のポイントについて解説する。
モルタル外壁の利点はいくつかある。まずは目地のない外壁がつくれることだ。独自の意匠性をもたらすほかシーリング箇所を最小化し、耐久性の向上やメンテナンスのしやすさにもつながる。もう1つは防耐火性を有することだ。防火構造(建設省告示1359号)のほか個別認定で1時間準耐火構造や1時間耐火構造を取得している工法もある。
モルタル外壁の雨漏りの原因
一方、モルタル外壁には懸念事項もある。まずは漏水だ。モルタル外壁は厚みで防水性をもたせる工法と言える。言い方を変えると、壁に水分がしみこむことを前提としている。これは層構成を考えるとよく分かる。まずモルタル自体に透湿性があり、細かいひび割れも発生する。特に開口部など取り合い箇所にはひび割れが生じやすい。さらに防水紙とモルタル層にもわずかな伱間が生じ、防水紙やラスの固定にステープルを用いることから細かい穴が生じる。このようにモルタル外壁には無数の穴が開いている。雨が掛かるとこれらの穴から雨水が浸入し、毛細管現象などにより壁のなかで水分が移動する。
ただし、水分の移動がすぐに漏水につながるわけではない。台風などの強い風が当たったり、窓まわりなどからの一定量の漏水があることでモルタル内に含む水分に力がかかり、壁のなかの水分が特定の箇所に移動して漏水を引き起こす。
実際、モルタル外壁の雨漏りは少なくない。瑕疵保険の雨水浸入に関する保険金支払いの割合を見ると、外壁と開口部からの浸入が70%を占めるが、サイディング外壁と比べてモルタル外壁は2.68倍の雨漏り件数があり、モルタル外壁で主流を占める通気層なしの工法は通気層工法の3.36倍の雨漏り件数があると報告されている(※「既存保証住宅(住宅性能保証制度)の雨漏り事故リスク分析」(住宅保証支援機構)より)。
このように、モルタル外壁が最終的に雨漏りに至る最大の理由は、直張り工法で通気層がないことにある。モルタル外壁が主流であった30~40年前の木造住宅は、気密性が低く、壁にも伱間が多かったため、壁に雨水が浸入して木材が含水しても乾燥しやすかった。そのため、雨漏りによる軸組みの劣化は水まわりや地面に近い部分などに限られていた。一方、現在の木造住宅は気密性が高く、外壁側は透湿抵抗の高いアスファルトフェルト、室内側は防湿気密シートに挟まれているため、雨水により含水した材料は乾きにくい。
雨漏りにはモルタル外壁を構成する材料の影響もある。モルタル外壁の構成材料のうち、雨漏りに大きく影響するのが防水紙だ。日本建築学会JASS15「左官工事」や、住宅金融支援機構の「枠組壁工法住宅工事仕様書」などでは、JISA6005(アスファルトルーフィングフェルト)に規定するアスファルトフェルト20kg(430)もしくは改質アスファルトルーフィング以上の性能を求めているが、現実には8kgや17kg品も用いられている。
少し古いデータだが、2006年日本建築学会大会で国土技術政策総合研究所建築研究部・宮村雅史さんらの発表によると、8kg、17kgフェルトを用いた事例が61.6%、20kg(430)フェルトを用いた事例が15.4%であった。
上記の内容については、改修の経験が豊富な実務者にはよく知られている。新潟市の自然派ライフ住宅設計の大沼勝志さんは「雨漏りのほか、基礎や軸組みなどの躯体が動くことで、壁自体に亀裂が生じた事例はよく見かける。30年以上経過してもしっかりしているモルタル外壁もあるが、雨漏りでどうにもならない外壁がかなり目立つ」と話す。
雨漏り被害を生じているモルタル外壁の場合、雨漏りから軸組みの腐食に進展し、改修時には柱がなくなっているような状況の建物もある。特に基礎の立ち上がりが低い場合、水が軸組みに染み込んで腐朽やシロアリなどの被害を受けやすいという。「雨水はどこからモルタル外壁のなかに入り、どこに移動するのか分からない。状態を正確に知ることが難しく、改修の際に苦労する」と大沼さんは話す。
モルタル外壁の雨漏りの原因
次に漏水につながるモルタル外壁の具体的な欠陥について見ていく。欠陥は大きく下記の4つに分かれる。
1.欠損
モルタルの一部が欠けて剥落した状態のこと。出隅部や換気口などの貫通部などに欠損が生じている場合、何らかの外力がかかったことが原因の場合が多い。
2.浮き
モルタルの各層やモルタルと防水紙などの接点に伱間が生じた状態のこと。浮きが進行すると、外壁面が目視で分かるくらいに膨らむ。多くの場合はモルタルの硬化不良が原因といわれる。下塗りが付着している場合、上塗り部分のみを塗り直して補修する。下塗りが硬化不良を生じている場合はラス、防水紙から施工をやり直す。これらは部分解体を進めながら判断していく。
3.ひび割れ
モルタルに割れが生じている状態のことで、クラックや亀裂ともいう。外壁一面に細かいひび割れ(ヘアクラック)が生じている場合、モルタルの調合に原因がある可能性が高い。また目視により亀甲状のひび割れが認められる場合、塗膜のみのひび割れのケースもある。ひび割れ幅が0.3mm未満の場合は、その部分に下地調整材を摺り込むか、全面に下地調整塗材を塗り付けて補修する・・・・
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続きは、『新建ハウジング別冊・プラスワン5月号/断熱リフォームへのアプローチ P.44~』(2020年5月10日発行)に掲載しています。
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