住宅生産団体連合会(住団連)は、このほど会員企業284社から、労働災害発生状況を把握する「令和2年 低層住宅の労働災害発生状況報告書」を発表した。令和2年の労働災害発生件数は新築工事、増改築・リフォーム工事で減少したため388件で前年比85%の減少となった。また、1000棟当たりの労働災害発生件数は全体で前年比110%増加。これは全工事で完工棟数が減少したものの、新築工事のみが減少、増改築・リフォーム工事は横ばい、解体工事で増加が続いていることが要因としている。
次に作業分類別労働災害発生状況を見ると、近年と変わらず、建方工事と内部造作工事での災害発生比率が高い傾向が続いている。建方は最も発生の多い墜転落災害に直結してしまう環境下での作業であるため、それを防ぐために足場先行工法の常識化にとどまらず、墜落制止用器具の使用が不要となるような仮設計画が理想とされてはいるものの、実現することが難しいとされている。そのため、作業員の墜落制止用器具着用の徹底は当然として、墜落制止用器具を使用するための安全ブロックや親綱等の設置など、保護具の使用を促す環境整備も重要だ。
内部造作は、墜転落に次いで多く発生している切れ・こすれ災害の原因となる丸のこ等の電動工具を使う頻度が高い工事であるため、電動工具の定期点検の履行はもちろん、日々の作業開始前・作業終了後の点検並びに作業手順の理解を徹底しなければならない。
職種分類別では概ね例年と同じ傾向で、現場での作業時間が最も多い「大工」が、例年同様に全職種中4割以上の高い割合だった。また、「とび足場」「基礎」についても、近年災害発生が増加の傾向にある。災害発生頻度の最も多い墜転落のリスクのある職種としては、脚立を多く利用する職種である「大工」や、足場等高所での作業が必要な「とび足場」といった職種が見られた。その上、建設業では様々な電動工具や鋭利な刃物を使用する作業が多く、疲労等で気を抜いた際の工具による災害も後を絶たない状況。
屋外での作業が多い職種である「とび足場」「基礎」や、閉所で高温多湿な環境で作業をする「大工」「給排水」等といった職種では、近年、熱中症の発症が顕著になっている。
原因・労働災害発生状況は、過去3年を比較してみても大きな変化はなく「墜転落」(45.9%)が多く発生している。続いて「工具(切れ・こすれ)」(16.5%)、「転倒」(10.3%)、「飛来落下」(8.0%)の順だった。墜転落の内訳では、昨年増加した「足場」からの災害は減少しているが「開口部」「ハシゴ」からの災害が増加している点が見られた。
月別に見ると、3月~5月と11月、12月が6~7%台の減少傾向があり、これは作業に適した気候並びに工事量の平準化などの取り組みの効果が伺われる。対して6月~10月は8%~10%台と高めの発生状況が継続しており、6月頃からの急激な気温・湿度の上昇に伴う注意力の散漫、さらには熱中症対策として、WBGT値(暑さ指数)に対応した作業計画の見直し、給水・塩分補給等の配慮、ファン付きウェアの導入、遮光対策などの一層の充実が必要である。
■最も発生率が高いのは木曜日
曜日別の発生状況に関しては、木曜日が20%と突出しており、週半ばでの疲労の蓄積との関係が推察される。時間帯別では9時台と11時台が15%台前後と最も高い。次いで16時台が11%と高く、いずれも休憩や終業を目前とした時間帯での発生率が高い傾向が継続している。上記より気候条件の変化や労働の継続による疲労の蓄積に留意し、長時間の作業継続を避け、適時の休憩を取得するなどの対策について、継続的に安全衛生教育を実施しなければならない。
年齢層別に見ると、前年に比べ40歳代と50歳代で増加し、他の年代層では減少の傾向が見られた。令和2年全体で見ると60歳代以上の割合が23.7%と全体で大きな割合を占めており、40歳代が20.9%と前年より1.6%と増加。今後も低層住宅工事に携わる高年齢化と、若い外国人労働者の増加が予想されるため、高年齢層と低年齢層の災害発生比率の増加が懸念される。
住団連は一昨年4月から、今後の建設業の基盤となる「建設キャリアアップシステム」が本格的に稼働したことに触れ、「建設業が大きく変わろうとしているこの時期に、昨年から拡大が懸念された新型コロナウィルスによる感染防止のため緊急事態宣言、蔓延防止措置が発出される緊急事態となりました。建設業にとっての本当の困難はこれからとの声が多く上がっています」と建設業界に気を引き締める声明を発表。続けて「『災害ゼロ』『危険ゼロ』『安全先取り』の現場の実現を目指し、特に今年度は職場・現場での働き方を見直し、DX(デジタルトランスフォーメーション)活用推進による生産性の向上を図る持続的な活動となる様に関係部門と連携し推進して参ります」と展望を示した。
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