世界的な半導体不足の影響が、住宅業界にも及んでいます。特に、太陽光発電のパワーコンディショナの納期遅延は深刻で、引き渡しの遅れや売電差額の補償といったリスクをはらんでいます。弁護士の秋野卓生さんに、半導体ショックへの対処法を解説していただくとともに、顧客との契約時に活用できる合意書の書式をご提供いただきました。ぜひご活用ください。
1.半導体ショック
世界的な半導体供給の逼迫、また、半導体部品工場の火災により、半導体不足が生じ、太陽光発電システム用パワーコンディショナ(以下「パワコン」といいます)などの商品供給に、大幅な遅延が発生するという、いわゆる「半導体ショック」が発生しています。
木材のウッドショックと異なり、パワコンの場合、外国製の代替品では、設置位置が設計内容どおりにならなくなる、冷却ファンの音がうるさい、といった悩ましい問題も抱えており、一筋縄ではいきません。
2.半導体ショックは不可抗力にあたるか?
平成8年頃、一般衣料分野での急激なナイロン需要が発生する世界的な「ナイロンブーム」が発生し、国内染色工場の処理能力が飽和状態となった事に基づき、スキーウェアの材料である裏地の納品が遅延したケースについて、新潟地裁長岡支部平成12年3月30日判決は、「納品日が「希望納期」から遅延した主たる原因は折からのナイロンブームといういわば不可抗力であるというべきであり、原告の提示する「希望納期」が染工場の繁閑の制約を受けざるを得ないという意味で納期の目安にとどまることを前提とする限り、被告の担当者であるSらは、そのような状況のもとで原告担当者であるGらと頻繁に連絡を取り合いながら、「希望納期」からの遅れを少しでも解消すべく善良な管理者としての義務を果たして納品を了したものと認められる。」と判示し、履行遅滞責任は生じないと判断しました。
世界的な「ナイロンブーム」を不可抗力と評価した新潟地裁長岡支部平成12年3月30日判決に照らせば、今回の半導体ショックを不可抗力と評価できる余地もあります。
しかし、構造材が入手できず、上棟ができない、といった工事全体が進まないウッドショックとは異なり、半導体ショックは、半導体を使うパワコン等の設備の入荷が遅れるだけですので、工事は先に進みます。工事完成とは最終の工程を一応終了することと定義づけられるところ、工事完成に至らなければ請負代金を請求することができません。
また、固定価格買い取り価格が太陽光発電の稼働が遅れることにより、減額される可能性もあります。こうした金銭的リスクをはらむトラブルを回避するためにも「合意書」の作成を進めていきたいところです。
3.太陽光発電設備が未設置でも工事完了・代金支払いを求めたい
これは、特に、新築の請負契約において太陽光発電設備を設置するケースで、パワコンが未設置のため、工事完了と認められないといったケースを避けるため、工期延長の合意書の作成をお願いしています。
4.FIT買い取り価格が変更となっても責任を問われない内容としたい
FITによる売電単価は申請して認定がおりた時点での年度の売電単価が適用されますが、認定~太陽光接続の期限は1年間で、1年を過ぎても接続できない場合は失効され、再申請が必要になります。そのため、再申請により年度が変わり売電単価も変わった場合、その差分についての補償のクレームが出る可能性があります。
固定価格買取制度を利用する際に必要となる認定申請を、住宅会社にて代行するにあたって「〇年〇月〇日までに認定申請を行います」、「〇〇年度の売電単価〇〇円/kwhで売電をお約束します」といったように、施主との間で、認定申請時期や売電単価について約定しているのであれば、当該約定違反により、施主に生じた損害を住宅会社にて賠償する必要が出てきます。そのため、この賠償責任を回避する合意書の作成が不可欠となります。
5.引渡し(部分引渡し)後からパワコン設置までの間の電気代と売電金額は誰が負担することになるのか?
太陽光パネルは載っているがパワコンと接続できないという状況が続いた場合、上記のようなクレームも、発生する可能性のある内容であると考えます。
工期の延期や部分引渡しなど、住宅会社は、施主に十分な説明を尽くした上で、上記損害の負担はできない旨、明記した合意書の作成が必要となります。
6.施主に代替品を選んで頂いた場合(標準品<代替品の場合)、その差額は誰が負担するのか?住宅会社で補償する必要があるか?
この論点も明確にクリアーするためには、「合意書」の作成が不可欠だと思います。
施主に対し仕様変更を求めるためには、施主の承諾が必要となるため、当該承諾を得る際に、費用負担についてもしっかりと合意をしておく必要があります。
7.数々のショックを共に乗り越えていきましょう!
ウッドショックや半導体ショックなど、困難な状況は、いち早く顧客に情報をお伝えし、丁寧な説明を実施した上で、「合意書」を作成し、後々のリスクを回避していく事が大切です。
私は、住宅業界の皆様方の味方として、今後も法的課題を克服する事のお手伝いをして参りたいと考えております。
※合意書の書式例はこちら
合意書(半導体ショック)【Word】
匠総合法律事務所代表社員弁護士として、住宅・建築・土木・設計・不動産に関する紛争処理に多く関与。2018年度より慶應義塾大学法学部教員に就任(担当科目:法学演習(民法))。管理建築士講習テキストの建築士法・その他関係法令に関する科目等の執筆をするなど、多くの執筆・著書を手掛ける。一般社団法人日本建築士事務所協会連合会理事・法律顧問弁護士。一般社団法人住宅生産団体連合会消費者制度部会コンサルタント。
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