2050年「脱炭素社会」を実現するため、関係府省・自治体などの連携の在り方について検討する「国・地方脱炭素実現会議」が、このほど首相官邸で開催され、地域脱炭素を推進するための戦略が示された。
重点対策としては太陽光パネルの設置を挙げた。政府、自治体の公共施設の建築物や土地では、2030年には設置可能な建築物等の約50%に設備が導入され、2040年には100%導入を目標とした。蓄電池など需要側で需給を調整する蓄エネ機器の導入も含めて太陽光発電を初期投資ゼロで設置できるビジネスモデルが確立し、自律的に普及していること、2050年までに、電気を「買う」から「作る」が標準になり、自給自足する脱炭素なエネルギーのプロシューマーになっていることを理想に掲げた。
2050年の「カーボンニュートラルの実現」をめぐっては、菅義偉首相が昨年10月の臨時国会の所信表明演説で「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言している。
同ロードマップは地域課題を解決し、地方創生に資する脱炭素に国全体で取り組むため、特に2030年まで集中して行う施策を中心に地域の成長戦略ともなる地域脱炭素の行程と具体策を示している。
地域脱炭素は、これを成長の機会と捉える地域の成長戦略だ。自治体・地域企業・市民などの関係者が再エネ等の地域資源を最大限活用することで経済を循環させ、防災や暮らしの質の向上等の地域の課題をあわせて解決し、地方創生に貢献していく。
その中で庁舎や学校などの公共施設、廃棄物処理施設や上下水道等の公衆衛生施設、住宅や業務ビルなどの構造物は寿命が長いため、2050年カーボンニュートラルに向けて、今から更新時に省エネ性能の向上や再エネ設備の導入、電化や燃料転換等により脱炭素化を進めていく必要がある。
地方自治体によるカーボンニュートラルの決意・コミットメント(ゼロカーボンシティ宣言)は、全国に急拡大し、今年6月時点で400自治体(人口1億1千万人相当)を超えた。
これを基に意欲と実現可能性の高い地域から全国に広げる「実行の脱炭素ドミノ」を狙う。そのためには「地域特性に応じて適用可能な最新技術を活用して脱炭素を達成する事例を積み重ね、ノウハウを周辺地域や同様の地理的条件を有する地域の意欲と理解を醸成する」「脱炭素に資する技術・サービスの普及を促し、需要を増加させるとともに、標準化や技術力向上を進め、脱炭素に要する社会的コストを削減する」「地域脱炭素に必要な設備投資の原資やけん引役となる人材や技術等を確保する」とロードマップは、このような考えの下、2050年を待たずして多くの地域で、脱炭素を達成し、次の時代の地域社会へと移行することを目指す。
同ロードマップの施策は、まず今後5年を集中期間として全政策を総動員する。自家消費型の太陽光発電、住宅・建築物の省エネ、ゼロカーボン・ドライブ等の脱炭素の基盤となる重点対策は、地方自治体・市民など地域の関係者が主体となって、国も積極的に支援しながら、各地の創意工夫を横展開し、全国津々浦々で実施していく。
「住宅・建築物の省エネ性能等の向上」も挙げられた。2030年までに新築住宅の平均でZEHが実現していることや住宅の断熱性能等を向上させることがヒートショックによる健康リスクの低減等に資するものであるといったことが、国・地方・生産者・建築主等の共通認識になっており、当然のこととして取り組まれるようになることを目指す。このためには自治体が地域特性に沿った独自基準を設定し、事業者の研修・認定、認定事業者による省エネ住宅施工の支援を行う。
また、自治体に登録された省エネ改修アドバイザーが、専用の簡易診断ツールを用いて住宅のエネルギー性能の簡易診断を行い、地域住民に対して省エネ改修を働きかけるなどの創意工夫を施す。政策対応として環境省・国土交通省・経済産業省が地方公共団体による創意工夫を地方公共団体実行計画マニュアルなどを通じ、横展開をする。
さらに国と地方自治体による地域の住宅・建築物の省エネ改修の促進、ZEH・ZEBや住宅・建築物の省エネ改修のメリット等を分かりやすく整理し、情報発信する等を通じた機運醸成をしていく。
脱炭素先行地域で実現する削減レベルは2030年度目標と整合する削減を地域特性に応じて実現することとし、それらの道筋を2025年度までに立てる予定だ。それを満たすために地元自治体が中心となって、地域住民や企業・地域 金融機関等の幅広い関係者の理解と参加の下で地域特性や気候風土に応じて 再エネ、省エネ、電化、EV/PHEV/FCVの利用、カーボンニュートラル燃料の使用等の適切な対策を組み合わせて実行する。
その削減対策として、まずは「再エネポテンシャルの最大活用による追加導入」を明記した。先行地域内で消費する電力をできるだけ同地域内の再エネ電源により賄うため、再エネ発電設備を導入。具体的には、再エネ情報提供システム等のデータを基に3D都市モデルを用いたシミュレーションを行う等により、建築物の屋根や未利用地等の利用可能なスペースを正確かつ効率的に洗い出し、適地に積極的に再エネを導入する。
次に「住宅・建築物の省エネ及び再エネ導入及び蓄電池等として活用可能な EV/PHEV/FCV 活用」についても掲げた。新築の住宅はZEH、新築の公共施設や業務ビルはZEBとし、既築住宅・建築物についても、建替え・改修時には省エネ性能向上や、自家消費型の太陽光発電の導入、高効率ヒートポンプ給湯・空調機器等の電化設備・高効率ガス給湯機器・停電自立型の燃料電池等を組み合わせて導入していく。また、住宅・建築物への充電設備・充放電設備装備の設置も明記した。
「再生可能エネルギー熱や未利用熱、カーボンニュートラル燃料の利用」も挙げ、熱需要とうまく組み合わせながら、再生可能エネルギー熱や再エネ由来水素、合成燃料等の化石燃料に代替する燃料の利用を進めていく。また、「地域の自然資源等を生かした吸収源対策」も対策の1つとし、住宅などにおける地域材の利用促進、CLTなども活用した建築物の木造化・木質化等による炭素の長期貯蔵などを推進する。
これらを横展開していく上で評価分析に関しては環境省を中心に関係省庁で連携していく。取組みの進捗状況、排出削減や経済活性化などの成果を温対法に基づく地方公共団体実行計画制度等を活用し、定期的に評価分析することで透明性を確保する。同時に優れた地域を表彰すること等により、先行地域から他の地域へのノウハウや人材を横展開していく。
また、環境省が人口1000人の脱炭素先行地域づくりを想定して発生する経済活動の規模を試算したところ、設備投資に伴い40~100億円程度(雇用規模80~180人相当)、脱炭素実現後に年額約3~5億円程度と算出された。
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