過ぎたるは及ばざるがごとし
我々日本人は、おおむね皆真面目で、律儀な仕事をします。大工仕事にしても、ミリ単位の高精度の仕事を追求して、その対価を求める傾向があります。
確かにその技術は素晴らしいのですが、買い手であるお客様がそのレベルの精度を必要としているのかというと、多くのお客様はそこまでのものは求めていません。
となると、結果として、時間というコストをかけた緻密な仕事は、それを行った職人の、自己満足にしかなっていません。
オーバークオリティといえば聞こえが良いですが、ユーザーが求めていないことにコストをかけるのは、果たして正しい仕事なのでしょうか。
そして、その価値を求めていない、つまり分からないお客様は、それに対してお金を払うことを納得できない。なぜならそれに、価値を認めていないからです。それはお客様にその価値を認めるだけの知識がないからだ、と嘆いたところで、結果は一緒です。
それからもうひとつ。多くの日本の職人は、自分の担当している部分にはきっちりこだわるのに、そうではないところ、自分が直接関わりのない他業種の工程となると、一転してあまり興味を持たない。
お客様が欲しいのは、家という全体です。ところが、職人が見ているのは、自分の仕事の範囲です。自分の仕事の完成度だけを追求する。そこだけでは、家は成立しませんよね。他の業種と組み合わせて、トータルで初めて、お客様が求めている「家」という商品ができあがる。
昔の工務店はそれぞれの職種が、それぞれに高い精度を出して、それをただ積み上げていくことで結果として良い家ができる、というシステムになっていました。今でも家の原価を計算することを「積算」と言うように、各々が仕事を積み上げていく、という考え方です。
システムの逆回転
昔はそれで良かったのです。
しかし今の住宅の中心価格帯は1500万円です。昔よりもトータルコストは下がってきていています。そこで昔よりもコストを下げてもの作りをしようとすると、昔ながらのやり方では上手くいっていたこと全てが、逆回転を始めてしまうのです。
思考システムそのものが真逆の方向に働くので、じわじわと悪くなるというような状態ではなくて、方向転換して悪い方向に向かってしまう。あいだがないのですね。
どういうふうに逆回転しているのかというと、価格が下がったのだからと、これまでよりも仕事の質を意図的に下げてしまう。それぞれが自分の仕事だけを見ている状態でコストダウンが命じられると、家づくりの工程全体を見た上での合理化の方向には働かなくて、端的に自分が手にする対価が下がったのだから、作るものもこれまでより悪いものでつじつまが合うはずだ、となってしまう。
つまり手抜きをするのが、合理的な行動になってしまうのですね。
目的を見直そう
なぜそんなことになってしまうのかというと、そもそも諸外国に比べて、日本の住宅建築においては、現場監督の権限というか存在感が薄かったという事実があります。
日本の職人は、諸外国に比べて技術もモチベーションもレベルがとても高い。私が知っている範囲ですとカナダやアメリカになりますが、他の国では管理者であるホワイトカラーと現場で実際に手を動かすブルーカラーとの間には、大きな差があります。
ブルーカラーは基本、決まった作業を決まったとおりに淡々とこなすだけです。日本の職人さんのように、細やかな工夫をしたりはしません。
ですから、外国の現場監督は、例えるならオーケストラの指揮者のように強い権限を持って、あれこれ指図をしないといけない。一方日本の現場監督は、メンバーそれぞれが自分の判断で自分の仕事をちゃんとこなすので、むしろメンバーをうまく取り纏める、バンドマスターのような手腕が求められたのです。
しかし全体のコストを下げてなおかつ今のお客様に必要な性能を備えた住宅を作ろうとすると、そのやり方では問題がある。
コストダウンとは、安いモノを安く作る、ということではありません。部材と工程を見直して、作業全体の合理化をして品質を下げないでコストを下げよう、ということです。
自分の仕事に自信のある人ほど、コストダウンを嫌がる傾向がありますが、そうではなくて、家づくり全体の中で、適切な仕事をする、ということを考えて欲しいのです。
藤本 修(ふじもと・おさむ)
大手ハウスメーカーの営業などを経て香川県で工務店アンビエントホームを起業。その後そのノウハウを提供する「アンビエ ントホームネットワーク」を設立。さらに顧客管理 システムを外販するCRMを立ち上げた。現在は工務店の指導・講演で飛びまわる。
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