スマイル・カーブ現象
このアップルの事例は、電子エレクトロニクス産業で数 年前から言われている「スマ イル・カーブ」現象そのもの といってもよい。
スマイル・カーブとは、台湾エイサー社のスタン・シー会長がパソコンの各製造過程での付加価値の特徴を述べたのが始まりとされている。付加価値を製造過程の流れに沿って図示すると人が笑った口のような形になることからスマイル・カーブと呼ばれてい る[図]。
これが意味するのは、川上の企画開発と川下のアフターサービスなどにおいては付加価値が高くなるが、中流の製造・ものづくりの過程では付加価値が最も少なくなるということである。
パソコン市場を見ても、川上でOSやMPU(マイクロプロセッサー)を開発したマイ クロソフトやインテル、あるいは川下でプリンタのトナーの販売や修理などを行うようなビジネスは儲かっている が、パソコン自体を製造するメーカーは低収益に苦しんでいる。
アップルはこのスマイル・カーブ化しつつある業界の事業構造を十分理解し、戦略の柱に据えて見事に付加価値の高い(利益の上がる)両極を押さえるビジネスモデルで大きな勝利を収めた。
一方、製造技術に圧倒的な強みを持っていたソニーは、 その強みゆえにスマイル・カ ーブの谷に沈んでしまったということが言えよう。
これは電子産業だけの現象でなく、自動車産業や消費材全般においてもスマイル・カーブ化が 進行している。トヨタ自動車の豊田章男社長も記者会見でこう語っている。「日本のトップ企業であるトヨタ自動車でさえこのスマイル・カーブの 洗礼を受け始めている」。
一方、アセンブルメーカーの利益率低下を尻目に、利益率が最も高くなっているのが中古車を取り扱う企業、補修改造やオートローンを提供する企業である。つまりは、車を買うための支援ビジネス、 買った車を長く安全に使い続けるためのソリューション、 更にその車をより高く売るための仕組みの提供といった周辺サービス産業が儲かっている。
これらは今後の住宅産業の 未来を見通す際、格好の先行事例に見えてならない。
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