建築家の伊礼智さん(伊礼智設計室)は、家具を、心地よい空間づくりに不可欠なものであると同時に「自分らしいデザイン」を表現する要素だとも捉えている。
家具の設計においては、自身が設計した空間になじむデザインを心がけつつ「大工がつくれる」ことを意識。工務店も、大工がつくれる範囲で造作家具をつくっていくことで、より自社の家づくりの価値を高められると説く。
住宅の設計に合わせ、オリジナルの家具をデザインすることにはどのような意味があるのだろうか。伊礼さんは、家具をデザインすることは「自分らしい住宅を提供しようと考えているかどうか」という、ものづくりの姿勢を表すものだと考えている。
伊礼さんは、住宅の設計を「心地よい居場所をつくる」ことだと定義し、家具を、心地よい居場所には不可欠な要素のひとつと位置付ける。コロナ禍の中、造り付けのソファーやデスクが、ステイホームや在宅勤務といったライフスタイルの変化に対応する、有効な手段にもなったという。
また、オリジナルデザインの家具は、プランや機能性にも良い影響を与える。キッチンを造作でつくれば、既製品のシステムキッチンよりも配置が自由になり、より使い勝手のいい動線をつくることができる。また、i-worksのためにデザインしたダイニングテーブルは、4つの引き出しがついており、収納としても機能する。
工務店や建築家の家づくりは、安く、当たり障りのないものをつくる量産型のメーカーとは違う。その工務店らしさがあり、施主に喜ばれるものを提供しようと思うならば「自社で製作できる家具は、自社でつくるべき」と伊礼さんは話す。
家具も空間の一部と捉える
工務店や建築家の家具は、家づくりと並行して設計することが多いはずだ。伊礼さんは、単体での美しさや機能を追求するプロダクトデザインとは考え方を変え「空間に置いた時の統一感」を大切にすべきだという。家具だけで成立するデザインにとらわれすぎず、空間に溶け込むことを重視する特に凝ったデザインである必要はない。むしろ、工務店が家具をつくる場合は「自社の大工や建具職人でつくれる範囲」のものであることも必要になる。ベンチにクッションを置いただけのソファーでも、空間にマッチしていれば十分だという。
置き家具、特に椅子はデザインが難しい。伊礼さんも、主にデザインするのはキッチンやローテーブル、ソファーなど造り付けのものがほとんど。これから家具づくりに取り組むのなら「まずは造り付け家具から」(伊礼さん)。
伊礼さんのおすすめは、キッチンから始めること。
この記事は定期購読者限定の記事です。続きは、『新建ハウジング別冊・ワンテーママガジン/空間の質を高める造作家具・建具』(2021年1月30日発行)に掲載しています。
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