2.「2030年GHG2013年比46%削減」をどう達成するか
標記の目標を達成するうえで、なぜ住宅・建築物への太陽光発電設備の設置義務化が不可欠なのか、定量的な研究成果に基づいて検討しよう。
この問いに対する最近のもっとも優れた研究の1つとして、自然エネルギー財団、ラッペーンランタ大学(フィンランド)、そしてアゴラ・エネルギーヴェンデ(ドイツ)による共同研究の成果を挙げることができる(Renewable Energy Institute et al. 2021)。これは、2050年にカーボンニュートラルを最小コストで実現する経路をモデル計算によって求めたものである。2030年に45%削減を実現することになっている点で、「46%削減」目標を考える参考になる。
この研究によれば、削減戦略の肝となるのはエネルギー転換(電力)部門であり、必要削減量のうち最大の約50%を担うことになる(本研究の試算によれば、2030年時点での必要削減量の約50%をエネルギー転換部門、約22%を運輸部門、約19%を業務部門、約7%を産業部門が担う計算となっている)(4)。
そのためには石炭火力発電を段階的に縮小し、2030年までに全廃、代わって再エネは少なくとも発電総量の40%を占める水準まで増加しなければならない。この増加を実現するために、太陽光発電の設備容量は倍増以上、風力発電の設備容量は6倍以上に達する必要があるという。
太陽光発電を急速に伸ばす上でカギを握るのが「プロシューマー」、つまり家庭、業務、産業の各部門で工場、ビル、そして住宅の屋根に太陽光パネルを設置し、その電力を自家消費しつつ、余剰電力は電力系統を通じて売却する企業や人々である。
では、「太陽光発電の設備容量は倍増以上、風力発電の設備容量は6倍以上」は達成可能なのだろうか。現在、経済産業省総合エネルギー調査会は「46%目標」を受けて再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)の拡大目標を精査中である(5)。同調査会の小委員会資料を見る限り、求められるレベルの再エネ拡大を実現するのは、極めてチャレンジングであることが分かる。太陽光と風力発電以外の再エネ電源(地熱、水力、バイオマス)を2030年までに拡大する余地は限られており、ほぼ横ばいか微増となっている。
その中でも再エネ発電電力総量が伸びることになっているのは、太陽光と風力発電の増加が寄与するからである。現行の政策を継続する「努力継続」シナリオの場合、2030年に現状(稼働済み設備+既認定未稼働設備の稼働)比で再エネ発電電力総量は14%増加すると見込まれている。これは、太陽光で19%、陸上風力は48%、そして洋上風力はなんと240%も増加すると見込まれていることが大きい。
現行の政策を強化する「政策強化」の場合は、再エネ発電電力総量が約22%の増(+太陽光発電のさらなる検討)となっていて、期待される増加量にははるかに及ばない。実際、太陽光+風力以外の導入量については、ほぼ横ばいか微増に終わっている。だが、そうした中でも風力発電の増加は目を見張る。陸上風力は70%増、洋上風力はなんと530%増となっている。目標に少しでも近づくためには、風力に加えて現在「更なる検討が必要」と表記されている太陽光発電を、いかに多く上乗せできるかにかかっている。
最も期待されている再エネは洋上風力であろう。これはもちろん大きな可能性をもつが、拠点港湾における岸壁・ヤード整備、専用作業船などのインフラ整備や人材育成、さらには遠浅の海が少ない日本の近海に適した浮体式発電設備の開発などにかかる時間を考慮すると、本格的に洋上風力発電が拡大するのは、2030年以降と見込まれている。太陽光についても、平地が少なく人口稠密な日本でメガソーラーを展開する余地は減少しており、すでに日本の太陽光導入容量は平地面積あたりで主要国最大、ドイツの2倍の規模に達している(6)。
そこで今後は、風力発電とならんで太陽光発電の飛躍的な拡大に期待が集まることになる。太陽光発電の中では潜在的に拡大余地が大きく、政策強化の対象として挙げることができるのは、ほぼ住宅・建築物等の屋根に設置する太陽光発電と、農地で展開される営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)に絞られる。総合エネルギー調査会小委員会は、前者に対しては「住宅・建築物に係るZEB/ZEHの推進」、後者に対しては「農地転用ルールの見直し」を掲げて推進姿勢を示している。
実際、これは合理的な結論であろう。2030年までという限られた時間内に迅速かつ安価に、そして大量に再生可能エネルギーを導入するためには、すでに確立された技術であり、なおかつコストが現在も低下し続けている風力発電に加えて、太陽光発電を推進することが有力な選択肢となる。環境省が「あり方検討会」第1回会合で提示した資料によれば、太陽光発電の導入ポテンシャル(設備容量)は再エネ全体の約6割超、経済性を考慮しても約4割弱と非常に大きい。住宅・建築物への太陽光設置義務化はしたがって、このポテンシャルを実現するうえで必要不可欠な政策手法なのだ。
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