たたき台では2050年脱炭素は不可能
今泉:このたたき台って、皆さんおっしゃる通り、とても情緒的、感覚的な内容なんですよね。検討会の名前に「脱炭素社会に向けた」とあるのだから、2050年脱炭素に向けて、バックキャスティングで工程を議論すべきなのに、それがなされている形跡がない。
間欠空調が日本の評価基準の主軸になっているのですから、それはもう変えなくてもいいと思うんです。実態が違うのは別の話。省エネ基準だと、間欠空調で一次エネルギー消費が80GJとなっていますが、半減して40GJを基準とすれば、たたき台で考えるとZEHでしかそれを満たせない。つまり、ZEHを義務化しなくてはいけないという意味になるはずです。
準備がどうこうというのは、世界中のみんなが思っているはず。でも、環境保護という観点で、全世界共通でCO2排出量を減らそうとしているわけですから、工務店だけが「そんなのは面倒だ」と反対するのは、社会性のある生物である人間として許されないでしょうし、許してはいけない。だから、現行基準でも構わないから、大人なんだから、今ある情報に基づいて半減させる策を、ちゃんと数字で示して、それで足切りをしなくちゃいけないのではないですか。そうなれば、もう結論は出ているんですよ。
三浦:なるほど、ありがとうございます。バックキャスティングならZEHの義務化が最低ラインであり、その先にG2の標準化がある、という意見になりました。ここまでの整理を、小山さんにお願いしたいのですが。
小山:国交省のたたき台では、「平均ZEH化」が2030年の目標になっていますね。平均ZEHとは、去年の4月のZEHロードマップで定義されましたが、性能がZEHを上回るいいものがあれば、そうでないものもあるし太陽光が載っていないものもある、全体で平均ZEH化ということです。
私はこの5年間、誰よりもZEHの普及、脱炭素に向けて情熱を燃やしてきたと自負しますが、誘導するだけでは絶対に無理ですね。そういう市場になっていない。今日、公開取材をご覧いただいているような、高性能な住宅を未来に残そうという想いをお持ちの事業者は、恐らくプレイヤーベースで言うと1割程度に過ぎないでしょう。残り9割は、いかに安い価格で販売するか、要はビジネスとしてこの市場にいらっしゃる。
だから、誘導施策では平均ZEH化はとうてい不可能だという前提で議論しないと、「何となく平均ZEH化を目指すからいいでしょう」という流れになりそうで、大きな危機感を抱いています。断熱に関してはZEH基準ではなくて―ZEH+の基準もありますが―、ニアリーイコールG2程度にしないと、とてもではありませんが、未来の世代から褒められる施策にならないでしょう。
三浦:無理やりな感じもしますが、この議論の落としどころが見えてきたような気がします。諸富先生には、太陽光のベネフィットを提言していただきましたが、法律の専門家からは、法的な問題や、急激な義務化は違憲になるとの指摘も、検討会の中ではありました。法的な観点では、義務化はやはり及び腰にならざるを得ないのかとも思います。
この問題は突破できるのか。それとも突破せずに普及させる方法があるのか。諸富先生のご見解をお聞かせください。
諸富:義務化が私的所有権や私的財産権を侵害することで、憲法違反になるのか、細かい議論はわかりませんが、たった今「明日から義務化する」と言うならば、それはそうかもしれません。法的な問題が起こる可能性は否定できない。
でも、例えば「5年後に義務化します」と言った上で、支援政策も含めて最大限の準備をしてそこに至る道を整備し、しかも前もってスケジュールを明示しているという状況なら、それでもってすぐに法的にアウトだとは言えないのではないでしょうか。
もしここで義務化が難しいというのであれば、義務化する年を決めるための議論をするべきではないかと思います。どのような課題や障害があるから、今は義務化ができないという論点を明確にし、その課題はどうやったら克服していけるのかを議論し、克服策を見出す。そんな前向きな議論をしていくべきじゃないかなと思いますね。
次ページ>>> 太陽光義務化は「2025年」?
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。