屋根の再エネポテンシャルを知ってほしい
小山:諸富先生のお話を聞き出すために、ちょっとコメントします。
日本の2030年の温室効果ガス削減目標が46%になりましたが、以前、26%の目標下では「家庭部門は約40%削減」と言われていました。46%になった今、家庭部門は何%削減するのか。電力系統側の二酸化炭素の排出係数がどのくらいの役割で、実際、家庭部門どのくらい減らさなきゃいけないのか。それが提示されていない状況なので、目標感がない、抽象的な議論になっています。
今、第6次エネルギー基本計画が策定中です。先週だったか、(公財)地球環境産業技術研究機構(RITE)―どちらかと言えば再生可能エネルギーには否定的です―から、参考値ですが、2050年には、住宅・建築物の屋根に100GWの太陽光発電を載せないといけないという見解が出ました。今は年に1GW、累積では15GW程度なので、2030年までは今のペースで進むとすると、その後は4倍のペースで載せないと間に合わない。これが再エネに控えめな組織の目安です。
ただ、国際的に見ればもっと頑張らないといけない。太陽光は今の約4倍のペースで住宅・建築物の屋根に搭載していかなくてはならない前提で、諸富先生に解説をお願いしたい。
諸富:資源エネルギー庁の議論はフォローしていませんが、そのペースはとてもよくわかります。
もちろん、他の条件もありますから数字は変化するでしょうが、少なくとも2030年台までは太陽光が率先する。4倍は、私が思っていた以上のスピードなのでちょっとびっくりしましたが、私の知る数字では、太陽光発電は2012年のFIT導入以来、年1%程度の増加で今はすでに総電力消費の18.4~5%に達しています。2030年までこのペースを維持することが、少なくとも必要だというのが、2030年に46%削減を達成する前提条件、ということでしたが、それ以上の数字になりますね。かなり頑張らないといけない。
見込みがあるのが、先ほど申し上げた農地と住宅の屋根、あるいは工場でもいいんですが。学校など、公共施設の屋根が最も大きなポテンシャルを持っていることは、環境省の資料などにも出ていますので、そういう意味ではこの数字を、住宅関係者の皆さまにも共有していくことが、とても大事になるのかなと思います。
初めにお話しした通り、太陽光の搭載が住宅の性能強化や、住まい手の生活水準向上にどれだけ関係するかということについて、どう説得すればいいか。これが、住宅業界の皆さんにとって気になるところではないでしょうか。エネルギーというものを、住宅の中で取り扱うときの難しさがそこにあるのだと思います。
東日本大震災が起こるまで、大多数の日本人は、発電という行為は(自分たちに)無関係だと思っていたんですね。電力会社がやればいいことだと。それが、急に「君たちもやらないといけないんだ」「君たちもCO2の問題を考えないといけない」と言われて、戸惑っている感じではないでしょうか。しかし、2018年に北海道の地震で起きた全停電(ブラックアウト)、2019年の台風で起きた千葉県の大規模停電など、日本では災害による停電のリスクが高いのです。この意味、危機感を共有していくことが大事です。太陽光発電による自家発電設備を備えておくことは、こうしたリスクへの備えになります。
とはいえ、危機感を共有するだけでは不十分で、何かしらメリットを強調していくことも必要でしょうか。少し先の話になりますけれど、徐々に分散型のエネルギーシステムに移行していきながら、電気事業者もやはり入ってくるし、蓄電池も、グリッドパリティ(再エネのコストが、既存電力と同等以下の水準になる点)を実現する上では、不可欠なパーツの一つになっていくでしょう。だから太陽光パネル、蓄電池、電気自動車の3点セットは標準装備になる可能性もあります。
その際、電力をやりとりすることがとても大事になると思います。既存の電力系統から得る電気が極小化されて自前で電気を賄える。うまくいけば売れて、むしろ追加収入が発生する可能性もあります。そういう時代になっていくんだ、という未来像を共有していくことが大事だと思いましたね。
竹内:エネルギーの話は、私も聞きかじりの部分があるので間違っていたら訂正をお願いします。まず、太陽光発電はとんでもなく誤解されていると思っています。太陽光発電は、エネルギーをつくるものですね。そもそも、FITの買取価格が安くなったとはいえ、今泉さんがYouTubeで発信しているように、それでも元は取れる前提があります。
太陽光発電を載せると何がいいのか。日本全体が消費しているエネルギーの1/3は建築物が消費しており、しかもその半分を住宅が使っている状況です。この状況下で、最も電気が不足するのが夏の午後―みんなが高校野球を見ているとき―。エアコンが一気に動くので、電力消費のピークが発生しますが、太陽光発電を住宅に設置すれば、ピークが小さくなる。発電所を新設しなくても、ピークカットができるのが大きなメリットであり、皆さんに共有したい話です。また、これがどんどん進んでいくと、今度は冬の寒い夜も、エアコンによってエネルギー消費が増えてしまう。去年冬、電力がひっ迫したのはこのせいだと聞いています。
日本のエネルギー自給率は6%。この問題の解決を、住宅が担わないとどうしようもないというところまで、もう来てしまっているんですね。諸富先生がおっしゃったように、電気自動車が走る蓄電池だとすれば、太陽光で作った電気を自動車に貯めれば、ガソリンを買わずに済む。電気はガソリンよりも安いので、車の燃費も良くなるし、住宅としても、エネルギーをつくって使える、自立的なものにできる。
エネルギー自立は、ある意味で自由になれるというか。例えば「災害が起こっても全然問題ない」とか、たくさんの便益があるのに、いきなりダメだと言われるのはよくわからない。太陽光の、将来の便益についても、諸富先生のご意見をお聞きしたい。
諸富:当然ながら、太陽光は夜に発電できませんから、今は既存の電力系統を利用せざるを得ません。しかし、蓄電池の価格が下がって各家庭に導入できれば、昼間、家で使う以上に発電した電気を貯めておいて、夜に使うことが可能になりますね。そうすれば、自分の家で使う電気は、自分たちで賄う自立型に近づいていくでしょう。
さらに、マイクログリッド化―コミュニティ内で電気を融通し合う―が実現できる未来にも進めます。ある家では、電気をそんなに使っていないけど、太陽光は発電しているから余分に電気が溜まっている。それを、例えば病院とか、電力消費量の大きいところに売る。逆に、電気が不足したらどこかから供給してもらう。そのやり取りをちゃんと記録して、後で清算するのです。電気の輸出と言えばいいでしょうか。売却量が多いほど追加収入、お小遣いが生まれるわけです。
もし、こんな時代になれば、住宅の屋根をできる限り広く使って、太陽光パネルを載せるのがいいという発想になっていくのではないでしょうか。収入も増えるし、設置コストを下げようとするインセンティブも働くはずですね。太陽光パネルは寿命もけっこう長いので、初期投資は掛かりますが、最大限の面積で、最も効率のいいパネルを設置すれば、20~30年に渡って収入をもたらしてくれるんです。
さらに、電気自動車がつながってくる。2035年に、ガソリン車の販売を禁止にするのが、今の日本政府の政策です。電気自動車に、住宅の屋根から電気を供給する。今までは、給電ステーションに行く必要がありましたが、自宅で太陽光から給電ができるようになる。こうなれば、本当にエネルギー的には自立します。
あとは竹内先生がおっしゃる通りです。2年前の台風19号で、千葉県では大規模停電が起こりましたが、CHIBAむつざわエナジーという会社が、太陽光発電とガスコージェネレーション―天然ガスが自然に噴出しているらしい―で発電をし続けていました。近所の人は携帯電話の充電をしに行ったり、温浴施設でお風呂にも入れたそうです。
災害時のエネルギー安全保障というのでしょうか。自立型の発電設備を持つからこそできるものであり、エネルギー面では災害が怖くなくなる、と思いますね。
竹内:私も海外で事例を見たことがありますが、日本での実現可能性も含めて、諸富先生にお伺いします。
電力を融通するというのは、それぞれの家庭が小さな蓄電池を持って、余った電力をおすそ分けしていくことですよね。電力市場は、今は株式市場みたいにはなっていませんが、いずれはそうなるんでしょうか。
また、電力市場が変わったら、今は日中の発電量が最大になるように、南向きにパネルを設置しますが、例えば、朝や夕方など発電量が少ない時間帯に発電できれば高く売れるとも聞いています。屋根の形が太陽光に支配されるとも言われますが、“逆張り”を狙えれば可能性も広がるし、太陽光も普及すると思いますが、私の話は現実的でしょうか。
諸富:竹内先生のご意見は、マーケットを見ながら収入が最大化するように電気をやりとりする発想が出てくるだろう、という意味だと理解しますが、私も基本的には、そういう方向に向かっていくと思います。
問題は、電力系統の整備・発達の度合いが、残念ながら今はレベルが低く、日本の電力市場は果たして公正な競争市場なのか疑われる状況であることです。昨年末から年始にかけての、電力価格の高騰もその表れです。竹内さんがおっしゃった事情だけではなく、電力会社の旧電力が、マーケットを寡占として支配している部分もあると思うんですね。時間がかかるので、詳しくはお話ししませんが、マーケットのいびつな構造も影響している、と。
ただ、今後は「調整電力」という考え方も出てくるでしょう。単に電気を売り買いするのではなく、時間帯によって電気が足りない、余っている場合に「調整力」を発揮できる人が手をあげるんですね。具体的には、電力が余っているときに自分たちが電力を消費すると、普段よりも安く電気を買い、消費できる。逆に、電力が足りなくて困っている人に対して、「調整力を出す」と言いますが、余っている電力を供給できると宣言すれば、通常の電力よりも高い価格で買い取ってもらって追加収入が得られる。マーケットによって、時間帯で電力価格が変わってくるし、調整力という考え方によって、自分で消費する以上の発電能力を持っていると、いろいろと得をする状況になるでしょう。
ただ、一軒一軒が電力価格の動向とにらめっこしながら「今売ろう」「今はやめておこう」というのは大変です―ヨーロッパでは既にそういう世界になっていますが―から、複数の住宅を、ひとつの事業者がまとめて引き受け、電力を合算してマーケットに売り、売買の成果である収益を、契約者に還元するようなビジネスが考えられます。専門家が、電力市場の動向を見ながら電気を売買する。例えば今は電気代が高い時間帯だから、需要を抑えた方が良いと指令を送って、実際に電力需要を抑えるとか、需要側もサービスに組み込める。
こうした行動をとることで、自分たちの収益の最大化を図る。それは単なる私的利益の追求に見えますが、実はそういうことをやると、電力システム全体の安定性にも貢献することに繋がります。つまり、全体として電気が余っているときに買い、足りない時に売る行動をするわけですから、需要と供給のバランスをとることに貢献するわけです。ですからベストなのは、電力市場をちゃんと機能させて、電気が不足して価格が高いときは儲かるとみんなが判断して、電気を市場に出していく。すると、電力価格が下がり、電力不足が解決する。逆に、電気が余っていると(価格は)下がり、ゼロに近くにまで低下するので「そんなに安い料金で使える状況なんだったら、今電気を使おう」と、需要がシフトしていく結果、電力の需給バランスが元に戻っていく。こんなメカニズムの中に、住宅も参加する世界になることが考えられますし、電力市場全体としても望ましいと思います。
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