なぜ全館空調が増えたのか
――今、全館空調が一種のブームのようになっています。断熱性が低いと増エネのリスクもあるのに、なぜこれほど普及したのでしょうか。
竹内:やっぱり、メディアなどで床下エアコンの事例などが取り上げられるようになって、適当なやり方で導入し始めた事業者が多いのではないでしょうか。エネルギー消費を減らすことに神経を使わないからどんどん増エネになっている。ZEHも同じですが、エネルギー消費をできるだけ減らしたうえで太陽光を載せてゼロエネ化することが基本だと思うんですよ。それをしないでやっていたら、いざ住んでみると電気代がやたらと掛かるだけで、何もいいことがない。
ちゃんと断熱することによってエネルギー消費を減らす。それから太陽光を載せる、というようにする、ベースの部分ができていない。先日出した私の資料にも乗せた、前先生、小山さんと共同で行ったシミュレーションでは、(断熱等性能)等級4で間欠空調の住宅よりも、G2以上にして連続運転するほうがエネルギー消費が減る結果が出ました。ページも割きましたので、まずこの資料を見ていただきたい。
そういうところがまずベースにあるんですが、まだ委員の方には「連続運転をするとエネルギーは増えるんじゃないか」という誤解がある。データに基づいて発言しているのに、イメージ先行で否定されるのはかなわないです。もっと冷静に見てほしい。義務化って大変なことだと思うんですけれど、何となくやらされても困るので。
私は、義務化と言うときは、義務化するとみんながハッピーになれることを前提にしています。「あまりこれはやりたくない」っていう感じだけで話が進むのは困ったものだと思います。
小山:全館空調といっても、工務店は床下エアコンなどが中心ですが、大手ハウスメーカーだと、各部屋にダクティングするようなシステムが前提ですよね。家全体を暖かくすれば、健康リスクを回避できるという知見が広がっている中で、ハウスメーカーなりの商品開発、差別化として進んでいるのだと思いますが、断熱が追い付いていない。結果、増エネになると。
諸富先生にもお伝えしたいのですが、現行の省エネ基準は、一次エネルギー消費量の基準が、部分間欠空調と全館空調で変わるんです。東京や京都のような温暖地だと、部分間欠空調としたときは80GJですが、全館空調にしたら基準値が100GJに上がるんですよ。全館空調にすると、20GJ、消費エネルギーが増えるわけですね。
おそらくG1ぐらいの性能で全館空調を導入すると、一次エネルギー消費量は90GJぐらいでしょう。省エネ基準で部分間欠空調の住宅より増エネになる。省エネ基準がダブルスタンダードになっているせいです。
とはいえ、国民のライフスタイルは変わっていく。今から2030年の理想の姿を考えるなら、当然ライフスタイルの変化を見越して、断熱性を高めておかないと、みんな全館空調しはじめ、増エネになるという恐ろしい結果になる。その議論がほとんどされていない。
――日本では、設備頼りの省エネだったように思います。設備機器の効率が大きく上がったことが、断熱性が低くても良いという現状につながっているのではないでしょうか。
前:私は建研のWEBプログラムの開発に関わりましたが、担当が給湯とコジェネレーションだったんです。
日本は、給湯のエネルギー消費量がとても大きい。暖冷房よりも大きいぐらいです。効果的な省エネ策がなかった中で、2000年代からエコキュートなどが普及して給湯の省エネ化が大きく進みましたが、そこで設備で省エネすればいいという結論に達してしまった。もちろん、給湯器の性能向上はいいんだけれど、つまるところ給湯はお湯が出ればいいわけです。生活の質を高めるために、もうちょっと何かないのかなと。
日本の暖冷房エネルギーの少なさは、快適さはさておいて、もったいないからと部屋にいるときだけエアコンをつける、出るときは消す、という、我慢の結果です。暖冷房を使う時間が短く、もともと電気代も大したことはない。だから断熱しても大して減らない。そこでスタックしてしまっていたんですよね。
こんな生活は良くない、生活水準を上げましょう、とやったら従来の、部分間欠空調を前提とした評価自体から乖離してしまった。健康などを犠牲にした、控えめな暖冷房のエネルギー消費を一度増やして、改めて減らすと考えなくてはいけない。生活水準を上げると増エネになる、そこからどう減らすっていう話になった。
私は、給湯のエネルギー消費の評価と省エネに、ある程度は関わってきたつもりなんですね。正直、給湯を省エネ化すればいい、みたいな話もありました。もしかすると、10年で交換する設備に対し、何十年も使う躯体の性能を上げるための研究を邪魔してしまったのかもしれない。一次エネルギー消費を減らすことには貢献できたと思うんだけど……。
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