期限が欠けたたたき台
――続いて竹内先生にもたたき台の率直なご感想、ご意見を伺いたいと思います。
竹内:率直に言うと、2030年、50年と期限がある割に、本当にのんびりした内容だなと強く感じます。「たたき台」と言いながら、数字や期限がどこにもないんです。
私は、スタッフにいつも「建築の仕事では、いつまでになにをするのかが大事だよ」と言っているんですけど、国交省にもちょっと同じことを言いたいかな。とにかく、期限と内容はセットにしてやっていかないといけない。少なくともそのフォーマットが出るべきだと思いました。
それから、もうちょっと議論させてもらわないと。明らかに間違っている意見を出す委員もいるけど、是正しなければミスリードになって、それがメディアの記事になっていたりもする。せっかく集まっているのだから、ちゃんと議論をして深めないといけないなと思います。
――小山社長からは、前回行われた業界団体ヒアリング結果を詳細に分析していただきました。それも踏まえつつ、たたき台のご感想を。
小山:私からは、2つの話題を提供させていただきたいと思います。
まず、既存の業界団体は“ゲームチェンジ”の認識が薄すぎる。低炭素・省エネの世界から、脱炭素・ゼロエネの世界にゲームチェンジした、という事実は、共有、認識されていないのではないかと強く感じましたね。
脱炭素社会における3本柱は、徹底的な省エネ、電力の脱炭素化、電化の推進です。例えば住宅、暮らし方の側面では、2030年代半ばには新車のほぼ100%をEV化することを目指す議論がある中で、家庭の電力需要はEVを中心に劇的に増えるでしょう。こうしたことも視野に入れるべきだし、オール電化や、電力系統に負担をかけない住宅であることも明確に提示されています。しかし、この目指すべきあり方に対する認識が薄すぎますし、まだフォアキャスティングの発言がちらちら見られたのがとても気になりました。
2つ目の話は、中長期的に目指すべき住宅・建築物の姿ということで論点が整理されてあるにも関わらず、最後の目標がZEH程度にとどまっている団体が多いことです。伊香賀(俊治・慶応義塾大学教授)先生も出席されていますし、健康リスクのない、冬季の室温18~20℃、かつ省エネ・ゼロエネを担保することが、検討会の目標のひとつだと捉えています。
今日は、ハウスメーカーの方も見られているかもしれませんが、総合展示場に行ってみると、半分以上の会社が全館空調ののぼりやポスターを掲げています。大手の断熱性能を平均するとHEAT20・G1程度で、これだと部分間欠空調を前提とした省エネ基準のエネルギー消費量よりも増エネです。つまり、市場はどんどん増エネに向かっている。
ただ、冬は全館空調で暖かく暮らすことは、2030年、40年に向けて一般化していくでしょうから、今の議論の延長線上では、少なくとも今後10年は増エネになることが目に見えている。今日は後ほど、前先生から問題提起があると思いますが、検討会では竹内先生以外、どなたもご発言されていないのは気になります。
最後に、番外編の意見です。中小工務店のZEH化率が低い、と決まり文句のように言われますが、中小であっても先導的な―この公開取材をご覧いただいているような―工務店は、むしろハウスメーカーよりも早期にZEH化率5割、あるいは8割、9割を達成し、コストパフォーマンスにも優れた住宅を供給しています。工務店にとっては風評被害、ミスリードです。
勉強していない事業者がいることが問題なのであり「未習熟工務店」という表現にしていただきたい。
――中小工務店はレベルが低いと捉えられてしまう問題は改善していきたいですね。諸富先生は工務店と聞いて、どんなイメージを持たれますか。
諸富:地域で住宅づくりを担っている事業者というイメージですよね。確かに、何も知識がなければ、大手にお任せするほうが安心だと思うかもしれません。
しかし、私も家を購入するときに、いろいろと調べ、結局、地元の小さな工務店から中古住宅を購入しまして満足していますけれども、工務店はそれぞれに特色がある。こちらが調べる気になれば、地域に密着した、良い事業者と出会えて、満足度の高い住宅を手に入れられると感じますね。
次ページ>>> なぜ全館空調が増えたのか
住宅ビジネスに関する情報は「新建ハウジング」で。試読・購読の申し込みはこちら。