「脱炭素住宅あり方検討会」公開取材第3弾
「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」第3回が5月19日に開催され、2回までの議論を踏まえた「今後の取組のあり方・進め方(たたき台)」が提示された。住宅の省エネ基準適合義務化や、基準の段階的な引き上げなどが盛り込まれたものの、全体的には具体性に欠ける内容となっていた。
新建ハウジングでは翌20日、この「たたき台」について議論すべく、3回目となる公開取材を決行。竹内昌義さん(東北芸術工科大学教授、同検討会委員)、前真之さん(東京大学大学院教授)、小山貴史さん(エコワークス社長)の3人に加え、検討会委員の諸富徹さん(京都大学大学院教授)をお迎えした。
さらに後半では、今泉太爾さん(日本エネルギーパス協会代表理事)と野池政宏さん(住まいと環境社代表)にも加わっていただき、たたき台の問題点や改善案を議論した。
【進行=編集部 荒井隆大】
※これまでの公開取材の全文掲載はこちらからお読みいただけます。
第1弾【全文掲載】「脱炭素住宅検討会」キーマンに公開取材!
第2弾【全文掲載】「46%削減目標」で住宅はどうなるか
2030年目標達成のためには太陽光しかない
三浦:まず、アイスブレイクとして、視聴者の皆さんに脱炭素住宅あり方研究会のネット中継を見たか、その内容に期待ができるかどうか、投票していただきましょう。
2回目までは、竹内先生、前先生、小山社長、そして私たち新建ハウジングで公開取材を行ってきましたが、今日は新たに、検討会の委員でもある京都大学大学院の諸富徹教授、そして後半の議論には、日本エネルギーパス協会の今泉太爾代表理事、住まいと環境社の野池政宏さんにも加わっていただきます。
ここでいったん、投票結果を見てみましょう。検討会を見られていない方も20%ほどいらっしゃいますね……内容に「期待できた」方は72%、「期待できなかった」方が28%となりました。
今日は、第3回検討会で出された「今後の取組のあり方・進め方(たたき台)」(以下「たたき台」)にについて、議論していきましょう。
――まず諸富先生に、自己紹介と「たたき台」への感想、そして先生が提言された内容をお話しいただければと思います。
諸富:はじめまして、京都大学の諸富と申します。経済学の立場から、環境問題の研究をしています。再生可能エネルギーの研究は、今最も力を入れている研究分野で、その観点から検討会に参加しています。
検討会が立ち上がったころはまだ「2050年カーボンニュートラル」を目指すため、ということだったのですが、第1回の直後に2030年の目標が26%から46%へと、大きく引き上げられました。昨日の検討会でも申し上げましたが、マクロ計量モデルで、日本が46%削減をきちんと実現するために、どの分野がどれだけ温暖化ガスを削減する必要があるか試算してみると、やはりエネルギー部門がとても重要なのですね。(削減量の)半分は、エネルギー分野で削減しなくてはならないことが分かりました。
2030年まで、つまり10年未満でできることは、やはり太陽光になります。洋上風力にも力が注がれていますが、本格的に立ち上がるのは2030年代ですから、迅速にできるのは太陽光発電しかない、と言っていいぐらいです。
ただ、太陽光でもメガソーラーは、もう設置可能な土地がない、あるいは迷惑施設化しているのが実情です。結局、建物の上か農地―ソーラーシェアリング―しかないので、住宅の屋根は高いポテンシャルを持っているし、相対的に安価なので、最も重要な存在なんです。義務化は必須でしょう。
2030年に、ZEB・ZEHを新築の平均で実現する目標が既にあるわけです。昨日の検討会では、それに向けて、単に現行の省エネ基準を適合義務化するだけではなくて、基準そのものがZEB・ZEHを達成できない緩い水準なので、これを段階的に引き上げていく必要があるのではないか、それを可能にする政策的な措置として融資と税制を使うべきだ、とも申し上げました。
「たたき台」を読まれた方はおわかりになると思いますが、省エネ基準の適合義務化等についてはともかくとして、太陽光発電の設置義務化に関して「取り組みの方向性」として書き込まれている内容は、ほとんど具体的な内容がないんですね。ですので、事実上の事務局である国交省は、太陽光義務化を見送りたい姿勢が明確に出ているわけですね。
仮に、太陽光の義務化を先送りしても、将来また議論をせざるを得ないでしょう。いろいろな意味で準備が整っていないから、先送りしなければいけないのであれば「いつ義務化するのか」を議論するべきです。遅くても2030年、できれば2025年にも義務化すると決めたうえで、それまでの5、または10年間を準備期間とするべきだと考えます。
――ありがとうございます。ちなみに、生活者、住まい手として、住宅の省エネ化についてはどうお感じになりますか。
諸富:ある程度は報道などで知っていましたが、省エネは住環境、住む人の生活環境の改善と密接に結びついていると改めて思いました。省エネ・断熱というと、どうしてもエネルギーだけの問題だと理解されがちかもしれませんが、住む人の立場からすれば、生活の質を改善するうえで決定的に重要な役割を果たすのが、省エネ基準や断熱の議論だと思いました。
太陽光は、省エネ・断熱と比較して生活の質の向上につながりにくいと感じられる点が、理解が広がりにくい理由かもしれません。ただ、多くの試算が明らかにしているように、十分に投資コストは回収できるし、経済的メリットがあります。居住者にとってそうしたメリットの理解が進めば、と思います。
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