新築住宅市場の縮小が見通され、人材の確保が厳しさを増す住宅産業において、生産性向上は生き残りに向けた大きなテーマだ。業務を効率化してロスをなくし、生産性を高める手法として注目されるのがDX(デジタルトランスフォーメーション)。地域工務店こそ、少数精鋭で変化に強い持続的な経営基盤を築くための切り札になり得る。
サイボウズ、RPA(ロボットによる業務の自動化)を基幹システムとして独自の活用法を生み出し、全社的なDX化を実現している、さくらホーム(石川県金沢市)の実例を紹介する。(グッドリビング友の会・北陸エリア年次大会講演より抜粋)
「アナログスタイルでは若手は定着しない」
さくらホームがDX化を推進した理由は、人材確保・定着が難しい建築(住宅)・不動産業界の課題を解消するためだ。同社専務の多江義教さんは、「アナログスタイルでは若手は定着しない」と指摘、属人的な業務を標準化して若手を即戦力化する仕組みを整え、労働環境の改善を図り生産性を上げることは、生き残りに向け避けて通れない不可欠な条件だと訴える。市場縮小やマーケットの変化、ニーズの多様化など、建築・不動産業を取り巻く環境に対して迅速かつ的確な経営判断をリアルタイムで行うためにもDX化は有効な手段という。
残業時間を約48%削減
同社では、RPA2台を導入して積算や顧客情報登録・管理、工程期限管理といった業務の自動化により業務時間を削減。導入前の2017~2018年の社員1人当たりの1カ月の残業時間が平均9時間29分だったのを、導入後の2020年には同4時間52分と、約48%削減した。同社ではRPA2台の業務量について「社員7.1人分の働きをする」と評価。同社ビジネスソリューション事業部ゼネラルマネージャーの上妻尭甫堯さんは、RPA導入により働き方改革を実現した効果の1つとして、「直近5年間でマネージャーの平均年齢が40.4歳から36歳になっており、若手がより活躍しやすい環境が整っている」と説明する。
「デジタル上司」が業務を支援
RPAを単なる業務自動化だけでなく、ロボットが社員の業務をサポートする「デジタル上司」に位置付けている点も同社の仕組みの大きな特徴だ。具体的には、日報をチェックして資料のアップ期日が過ぎているとデジタル上司がそれを社員に指摘、顧客に対して必要なタイミングで必要な提案・アクションが起こせていない社員に対してもそれを伝える。
また、経験とスキル、時間が必要となる、顧客が求める条件にあう土地・不動産案件の候補のピックアップや、問い合わせメールなどから顧客管理に必要な情報を選択して自動登録といったこともデジタル上司が行う。上妻さんは「上司が部下に対して期限が過ぎていたり、できていない業務について催促や指摘を繰り返すことは、実は上司、部下双方にとって非常に大きなストレスになる。そうした管理職の仕事の一部をロボットが担うことで、上司、部下ともにストレスを軽減する中で本来やるべ業務に集中できる」
「主体性に勝る生産性向上はない」
同社はグループウェアとしてサイボウズを導入し、独自の活用により、社員の行動と基幹業務を一元管理することで効率化、生産性向上に向けた成果をあげている。上妻さんは、「可視化」と「標準化」をポイントして挙げる。
可視化は、社内のあらゆるデータをリアルタイムで見れるようにし、迅速な経営判断を可能にしたり、社員の主体性を引き出すことが狙いだ。経営者、マネージャー、一般社員が、それぞれに必要なデータをいつでも確認できる。全体の売り上げ、1人当たりの売り上げとランキング、新規顧客の推移、社員数・平均年齢、勤続年数、性別、年齢、雇用形態、資格保有状況、全社での残業時間・前年比、ワーストランキングなど、あらゆる情報をポジションに応じてリアルタイムで見ることができる。上妻さんは「迅速かつ的確な経営判断ができるのはもちろんだが、マネージャーのマネジメントのレベルが上がり、会議のための資料をつくる必要もなくなる。何よりも大きい成果は、社員の主体性が高まり自律的に行動できるようになること」とし、「主体性に勝る生産性向上はないというのが実感だ」と語る。
あらゆる業務を「アプリ化」
標準化は、分かりやすく言えば「脱ペーパー化・脱Excel化」だ。同社ではサイボウズの機能を活用し、自社のあらゆる業務を「アプリ化」することで、標準化(=フォーマット化)を実現している。例えば住宅建築では、企画・設計の業務タスクの管理、工程の管理といった一般的なパッケージ製品(ソフト・システム)ではカバーできない業務までアプリ化しており、それにより入力=管理・情報共有となる。上妻さんは「アプリ化(による標準化)で、マニュアルが不要となり、若手も即戦力になる」と訴える。「グループウェアは、一般的にはコミュニケーションのためだけに活用していて、営業や経理などは別のシステムで動いていて、コミュニケーションと実務が分断されているのではないか。われわれはそれを一元集約している」と説明する。
さくらホームでは、自社のノウハウを工務店などに提供してDX化をサポートするソリューション事業も展開している。「限られた人数で生産性向上を実現するためにはDX化が不可欠だが、中小企業にとって人の配置やシステム導入などのハードルは高い。自社の実際に建築・不動産業で成果を発揮している方法をもとに、スピード感をもって最適なDX化を実現するための支援をしていきたい」(同社)
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