有効なストック対策は?
――検討会では、ストック対策の話題も多くありましたし、コメントも多数寄せられています。ストックは、新築以上に性能向上が大変です。改修ならこれくらいの性能にしたい、あるいはこれくらいあればいい、など、お考えをお聞かせください。
竹内:新築は、G2が断熱性能の最低レベルで、さらに断熱してエネルギー消費をもっと減らせば、さらに快適になるだろうと考えています。改修はどこまでやるか。私は、平成28年基準ぐらいまでは高められると思います。
今日の(前先生が出演した)NHK(の「あさイチ!」)の話そのままですが、窓を変えるだけでかなり性能はアップする。プラス、床や屋根裏の断熱をすると、何が起こるか。これはむしろ住まい手の幸せに関わる問題なのかと思います。もちろん、エネルギー消費も減るでしょうが「新築はあんなに快適なのに、うちはダメだ」という感情を潰すだけでも大きな意味があるでしょう。
三浦:前先生のお考えはいかがでしょうか。
前:新建ハウジングのご協力を得てつくった暮らし創造研究会のパンフレットには、断熱リフォームのやり方をいくつか掲載しました。竹内先生のおっしゃる通り、窓の改修をまずやって、できれば床も断熱する。これなら、あまりお金をかけずにできます。
ただ、再エネタスクフォースでは、改修の話はあえてしませんでした。窓と床だけの改修でも、快適性は間違いなく上がるのですが、省エネになるかは自信がなかった―暖房費が増えないまでは言えるかもしれないけど、少なくなるとまでは―ので。省エネとなると、竹内先生が言うように、かなりの断熱をやらないといけない。本当の意味で、脱炭素につながる改修はレベルが高いし、地味な話ですよね。正直に言えば、住宅全体の省エネなら、給湯器をエコキュートに変えたほうがいいかもしれない。
それから、工務店にとって改修は怖いのではないでしょうか。断熱改修をしたら結露して腐った、太陽光を設置したら雨漏りがおきた、とか。新築の瑕疵担保保険のように、改修こそ国が「ここまでちゃんとやればOK。何か起きたら保険でカバーするので、工務店の負担にはなりません」。改修のリスクは、工務店にとって無限大です。利益は小さいのにリスクだけが増える。
正直、既存住宅への太陽光設置って、皆さんとても恐れているんですよね。実際には問題ないことも多いんだけれど、ビスを打って防水層が損なわれると。
竹内:板金の屋根なら問題はないけど、穴を開けないようにコロニアル屋根に施工することは確かに難しい。でも、穴を開けても大丈夫な方法があるそうです。
前:おっしゃる通り。あとは努力して正しくつくり、残ったリスクは、保険で分散しましょう。太陽光に積極的な業者が倒産するのは避けたい。技術で減らせるリスクは減らすけれど、やっぱりトラブルは起きてしまう。そこは保険で、みんなで薄く広くカバーすることで、社会全体でいい方向にもっていきましょう。
全てを業者の負担にしたら、それこそみんな怖がってやりませんよね。やはりこれは、国が考えるべきだと思う。ちゃんとした工法を規格化・オープン化する。そして技術でカバーしきれない部分に、保険をちゃんと用意する。
そうしないと、既存住宅への太陽光搭載なんて、絶対にやらないんじゃないかと思います。脱炭素といったら、既存への太陽光搭載を議論せずには不可能だと思うんですよ。
改修こそ工務店の出番だ
竹内:実は今、住宅ストックが世代交代を迎えています。最近では、既存住宅を断熱改修して販売する買取再販業者も多くなりました。既存住宅は、建物の価値はほとんどないわけですから、断熱改修しても新築を建てるよりは安く、意外と広い住宅が比較的安価にできる。しかも、東京都内のマンションよりは安いので、すぐに売れてしまう。
こういう事例を聞くと、買取再販時に断熱改修を義務化して、そこに補助を出したりすれば、ストックの活用がうまくいくのではないでしょうか?
三浦:買取再販―僕は中古建売モデルと呼びますが―のほうが、性能向上や太陽光を搭載しても、適正価格で売れるし利益を上げやすいので、一つの切り口になると思います。
あとは前先生のおっしゃったように、リスクヘッジを国がちゃんとすることが必要でしょう。ただ、前提として建物の状況をきちんと調査できないと、リスクも測りきれないのが大きなネックになっている。手前味噌ですが、僕は工務店がそこを担うと思っています。買取再販以外の断熱改修モデルは、工務店の出番じゃないでしょうか。
着実に少しずつ、その市場を広げていってほしいと思います。そこに太陽光の話を結び付けて、快適、省エネ、脱炭素が両立していければいいですよね。
竹内:それぞれの地域の工務店の出番です。プロの目なら、この建物をちゃんと断熱をしたらよくなるのか、してもダメなのか、瞬間的にわかると思うんですよ。
工務店が怖がっているのは、どのくらいやったら効果はどのくらいかがわからないまま見積もりを出して、結果「暖かくならなかったじゃないか」とクレームが来たときのリスクではないでしょうか。工務店がちゃんと計算して数字を出して、これぐらいになるからこうしましょう、と提案できるようになれば、状況も変わると思っています。
温熱計算ソフトを使って、お客さんに「お宅の電気代は今、これぐらいですね」というと「なぜわかったの?」と驚かれるそうです。そこから「こういう風に改修すれば、これだけ変わります」と話ができれば、仕事がうまくいくと。何をしたらどれくらいのベネフィットがあるかを出せて、しかもそれをお客さんに提案をできるということですね。
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