“神話”をひとつずつ解体する
三浦:検討会の話に戻して、まとめに入りましょう。今日の議論は、コスト、地域性、施工の3つの問題に集約されるものだったという気がします。政府や省庁からすれば、そういう意見が出されたら「そうですか」と、まずは受け取るしかないでしょう。
ただ、受け取ったあと、それに対する解ってなかなか出せないと思うんですね。そういう意味では、今日この3人でやっていただいたように、民間ができない理由をどんどん潰して、意見書を出したり、提案していかないと、省庁は「そうか、できないのか」と受け取っておしまいになる。だから、今日ご提案いただいたことはとても有意義だったと思いますし、今後もどんどんできない理由を潰していくことも必要なのかもしれません。
あとは前先生がおっしゃったように、国として豊かさのビジョン、「こんな暮らしがいいんじゃないか」という提案を、国はもっとしていくべきなんだけど、一方で国がその提案をまとめるのも難しそうな気がしますから、それもこちら側から提案したものを国として受け取ってもらい、再発信してもらう。国が苦手なところをみんなで補っていかないと、できない理由が出て終わってしまう気がして。せっかくの公開取材の場なので、何とか乗り越えていきたいと思っています。
太陽光に関しても、技術レベルでは問題を潰せると思うんですね。あとは地域や屋根形状など、困難な要素に対して、どのような制度設計をすればアジャストできるのか、提言のような形で出して行けたらと思います。小山社長、いかがですか。
小山:今日の資料がまだ公開されていないので、公開されたら全部見て、事業者の目線から「この問題はこうしたら対応できる」と整理したものを、竹内先生と前先生に見ていただいてレポートとしてまとまればいいのではないかと思います。
今日も、提言をわざわざ出したのは竹内先生だけでしたが、とてもいいことだと思います。本当は、委員みんなが提出したほうがいいんですよね。経産省のZEH委員会でも、私は自主的に出していましたが、他の団体の方は言われないと出さないんですよ。いい宿題をいただいたような気がしますので、さっそく整理してみます。
前:“神話”が多い気がしますよね。誤解という方が正しいでしょうか、「~ということになっている」という話が、実は「ある意味では違う」となることが多い。検証不能の状態で放置されているというか。
小山:多いですよね。省エネ基準適合、省エネ計算の掛かり増し費用をどうするんだ、という話がまだ出てくる。既に説明は義務化されていて、それを前提にしているはずだと思うんですけれども。
前:根拠のない話を喋ってはいけない、ぐらいでないといけないと思うんですよ。誰がどういうシチュエーションで言ったのか、わからないまま言葉尻だけが切り取られる。
楽をしたいから、できない理由を一生懸命探している人たちが存在する。
私は、今日竹内先生がお話しされた計算結果について、計算ソフトの設定ファイルなどを全て公開しています。間違いはあるかもしれないですが、それはバージョンアップしていく。みんなが検証可能な状態にしておいて、直すのなら直す。
どこかに丸投げではなく、いい知恵をみんなで集める努力をすることが大事だと思うんですよね。
国交省も経産省もリソースには限界があるでしょうから、一所懸命努力してもできないことはあると思う。文句だけを言っていてもしょうがない。「もっといいもの」をどんどん持ち寄らないとダメだと思うんですよ。それをやらずに役所はああだ、学者はこうだと言っても、何の問題の解決にもならないと思うんですよね。
竹内先生、あの短い時間で他の委員と議論ができないのはもったいなくありませんか?
竹内:5時間ぐらいあって、何でも喋れるぐらいだといいのですが……さすがに、あれだけ人数がいて、その質問を団体に回答してもらうには、これが限界なのかと思う。
これからどうするのか、ヒアリングはありました。検討会の方針や、2030年の目標が46%に引き上げられた場合の国交省のスタンスも聞いていない。4月22日に公表されたばかりですから、どうするのかはまだ決まっていないと思いますが。
でも、今日も大勢の方が視聴されました。つまり各団体が、世の中に対して話をするわけですから、各団体ともかなり考えられて発言していたなと思った。消費者団体など、もっと多様な方の、多様な意見が反映できるような仕組みになればいいんですけど。あとは、国交省にメールを送ってもらうとか、そういうことになるのかもしれない。でも、それもやってもいいと思うんですよね。
私は初め「中小の工務店ができない」という意見に抵抗を感じていました。そんなことはない、できる。教育さえクリアすれば、できるようになります。先ほど三浦さんが言ったように、できないことを潰していけばいい。本当に誤解が多いなと思いますね。
前:神話というか定説というか「そういうことになっています」という話が、石をひっくり返してみると「あれ?いったい何の話だったんだ」となる。それを一個一個やっていくっていうことだと思うんですよね。
委員の中には、法律家や消費者団体など、つくり手とは別の視点で考えている方が大勢いますから、彼らにもっと意見を出していただきたい。この公開取材がそれに向いているのかはわからないですが、他の委員の方々と竹内先生が、もっと密な、横の繋がりをつくれるといいのではないでしょうか。
竹内:そうですね。それは三浦さんの宿題ですね。
三浦:わかりました。みんなの宿題としましょう。
前:つくり手側の話ばかりが先行している。やっぱり、生活者を代表する人が、住宅・建築業界に対してどんな印象を持っているか。正直なところ、不良業者とか、手抜き工事とか、ネガティブな印象を持っていると思いますけど。
竹内:今日、委員の方から、自宅を外断熱で改修しようと思ったが、なかなかできない、という話がありましたね。ちゃんとできる業者がいないのが、現状だと思う。思わず「見ましょうか」って言いかけたけど(笑)。
でも、ちゃんと設計・施工できる人を育てていかないといけない。今の世の中、YouTubeなどで勉強をしようと思えばできる。気密層の施工法だって、動画がいろいろと転がっているじゃないですか。メディアやSNSの力ってとても大きいと思うので、そうやっていくと変わるでしょうね。
三浦:いい時間になってきました。延長できるのもオンラインのいいところではありますが、それぞれご都合もおありかと思います。皆さんにいったん、言い足りないことを最後に言っていただいて締めたいなと思います。
小山:2050年からバックキャスティングで考える習慣を、みんなとともに考えていきたいと思います。
竹内:今日の視聴者のみなさまの応援もあって、何とかなってきていると思います。色々な意見をFacebookでもいただきますが、多くの気づきがあって本当に助かっています。できるだけのことはしたいなと思いますので、コメントでも何でもいただければと思います。よろしくお願いします。
前:今回の検討会は、委員の皆さんが前向きだから「できれば家は高性能な方がいい」という議論になっていると思います。例えば、太陽光のコスト試算結果も出て、委員の方々も定説、カッコつきの常識が本当はどうなのかという意識を持つように変わっているように感じます。
定性的な話ではなく、バックキャスティングで、相当深いところまで踏み込んだ議論ができるようになっていると感じます。これは今までにはなかった話で、とてもいい傾向でしょう。ネットでオープンに公開しているから、つくり手から、世の中に反抗するような意見も出にくくなった。
竹内先生が、メディアや消費者団体、あるいは法律の先生とも横のつながりを持って議論されていけば、思い込みを正すことができる。しかもその先には、繰り返しますが、日本に住んでいる人がみんな幸せになる未来がある。今後、(断熱や太陽光を)やらないのがもったいないという風潮につながっていくことを期待します。「みんなにとって得しかない、なぜやらないの?」っていうくらいの状況になってほしい。
三浦:ありがとうございます。全く同感です。
一点だけ付け加えれば、今日の団体ヒアリングでは、木材やバイオマス、SDGsなど、広い味方で環境問題を捉えようとする発言がありました。現在、ウッドショックが起こっている中で、国産材活用を、環境問題や脱炭素にどうつなげるのか。この話題も、同時並行で進めたほうがいいと考えています。
そういう意味では、ZEHの話だけが先行するより、国産材の利活用が脱炭素にもつながることを同時に考えて進めていく中で、新建ハウジングとしては地域工務店がそれを加速させる存在になればといいなと思います。
時間になりましたので、ここで締めたいと思います。前先生は、お時間があれば残っていただくのが定番化しそうですが……(笑)。
前:しばらくは大丈夫ですよ(笑)。
小山:私は次の予定がありますのでここで失礼いたします。どうもありがとうございました。またよろしくお願いします。
——(小山退出)——
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