住宅以上に遅れているZEB
竹内:すみません、話が長くなりました。前先生、小山さん、補足がありましたらお願いします。
前:ありがとうございました。適切なご説明でした。
問題はZEBですよね。私も、竹内先生のお話を否定するわけではありません。非住宅でも、もっと外皮性能を考えるべきだと思っています。昔は非住宅にも「PAL*(パルスター)」という外皮性能の指標がありました。オフィスは冷房主体で考えられていたので、日射遮蔽性能を重視した指標です。
今の建築物省エネ法では、パルスターは重要な指標としては扱われていないんですよね。
非住宅系は、外皮、断熱、日射遮蔽、換気装置、空調設備、効率とか、多くの要素がかみ合うので、それはそれでしっかりと議論したほうがいいと思うんです。ただ、ZEBの研究者もたくさんいる。(検討会座長の)田辺(新一・早稲田大学教授)先生はZEBがご専門ですし、ZEBの効果的な対策をよく議論したほうがいい。
竹内:いろいろ指標があって、難しいんですね。
前:ZEBは、じっくりと取り組んでみるととても面白いテーマですよ。非住宅の設備設計者は多いのですが、冷房の容量設計しかしていないんです。
彼らにとって省エネはどうでもよく、「冷房が効かない」との苦情を回避するために、冷房能力が足りるようにしか設計しない。そこは本当に直さなければいけない。竹内先生がおっしゃる通り、ある意味では住宅以上に遅れている面がある。
それに、非住宅は仕事が分断されてしまっていますよね。お互い、連携ができない。
竹内:デザイナーが考えた結果「これをするためにはこうしなければダメだ」っていう話になりがち。「この容量だったら、これではダメだ」とか、設備のフィードバックが設計に活かされない。そういう相談をお互いにしていないんだから難しいに決まっていますよね。
前:非住宅は出資者とオーナーと管理者と利用者が違うので「スプリットインセンティブ(当事者間で利害が一致しない)」の問題が発生してしまいます。
戸建て住宅は出資者が住むものなので、トータルコストを示せれば(受け入れてもらうのは)とても簡単なんですが、集合住宅になった瞬間、建てる人と住む人が違うので話がややこしくなる。
非住宅はもっとバラバラ。竹内先生が言われる通り、トータルで考えたらZEHもZEBもちゃんとペイするようになっているけど、ステークホルダーが分断されているせいで、ライフサイクル、日本全体のことを、全く考えられていないんですよ。
やはり、戸建て住宅の義務化は最も簡単だと思うんですよね。だから戸建て住宅は、議論するまでもなく、ZEHなりなんなりを義務化する。生活者にメリットを普及啓発して、住宅ローンなど金融的な支援を実施すればいい。
生活者に示せる「ものさし」は何か
――弊社でも、雑誌「だん」などを通じて、生活者への周知に取り組んでいます。しかし、今日も分譲系の団体から意見がありましたが、やはりイニシャルコストを気にする人は多いようです。生活者への普及啓発について、ご意見があればお聞かせください。
竹内:今でも、大手ハウスメーカーは現行の省エネ基準レベルでも高断熱・高気密と呼んでいる。高断熱・高気密と一口に言っても、生活者に届いている実態は全く違うんですよね。
自動車のように、ちゃんと建物の燃費がわかるような指標をつくって、それで生活者に選んでもらうことから始めないといけないでしょう。年間の暖房負荷なり、G1、G2、G3の性能なりを丁寧に説明して。鳥取県の制度(「とっとり健康省エネ住宅」)は、その辺がちゃんとしている。助成金の額は違うけど、県民が高いレベルを目指すように誘導できる制度になっているのが、とてもいい感じですね。
同じ量の燃料で倍の距離を走れる車が横にあるのに「この車は高性能です」とは言えないですよね。でも、住宅業界はそうなっていないと感じます。
――車なら「リッター〇キロ」と言えばわかりやすい、比べやすいけど、住宅にはそれがない。
竹内:ないですね。(断熱の)等級が4で止まっているから、G1、G2など全く違う指標を使うわけですよね。
また、躯体の断熱性能で比べるのが最もわかりやすいですが、一棟ごとに計算するのなら、暖房負荷で考えれば、南側の窓も大きくて気持ちいい、自然を生かした住宅ができると思います。
現行の義務基準だと100kW/m2くらいなんですけど、そこから50kW/m2、30kW/m2、15kW/m2と減ってくるとだいぶ違う。それを、灯油や電気代など、お金に換算をするのでもいいから、何か生活者にわかりやすい指標が必要かなと思いますね。
三浦:「ものさし」ってすごく大事だと思うんです。今日の検討会でも「制度がたくさんありすぎてよくわからない」という意見が出ましたが、今は、BELSもあれば、ZEHもあるという状況で、ものさしが統一されていない感じがする。
それに「ものさし」のベネフィットが生活者に伝わっていないのでは。“ドリルと穴理論”ではないですが、生活者が本当に欲しい「穴」に相当するものは、住宅の高性能化においてはまず光熱費や燃費になるのだと思いますが、室温なども示すことができるのではないでしょうか。
そういう意味では、ものさしとベネフィットを一致させて、わかりやすく示す。それが制度まで落とし込まれてくると、状況も変わるかもしれない。そぐわない制度を廃止することも考えなきゃいけないと思いますが、小山社長、いかがでしょうか。
小山:私も、いろいろと勉強をしてきたのでどの仕組みも当たり前に感じますが、多少簡素化する必要性はあるんでしょうね。
三浦社長がおっしゃった、温熱環境に対する常識を改めることは必要かと思っています。今は温暖地でも、工務店はもちろんハウスメーカーも全館空調を前提に提案をしています。健康のためには廊下、トイレ、脱衣所も寒くならないという前提に統一していくべきなのではないでしょうか。6地域、7地域―沖縄も含めたほうがいいのかもしれません―においても、冬の健康メリットを前提にして議論を進めるべきだと思っています。今日の検討会でも、伊香賀(俊治・慶応義塾大学教授)先生が、竹内先生の発表にコメントしていただけたら、と思っていたんですが……。
ただ、有識者の方々も、全館空調を前提にしなければいけない、とうすうすは感じていらっしゃるようなので、その議論になっていけばいいなと思っています。
三浦:前先生、計算やものさしの前提を、全館空調に統一しようという話だと思うんですが、この辺はいかがでしょう。
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