G2に生活者の不利益はない
竹内:ここからは、前先生や小山社長に相談し、サッシメーカーにもご協力いただきながら、G2と現行の省エネ基準にどのくらい差があるのか、市販の計算ソフトでちゃんと計算した結果です。比較したのは断熱等級4(UA値0.84)、HEAT20・G2(UA値0.46)で、単純に言うと性能が倍違います。アルミサッシと複層ガラスを、樹脂サッシにLow-E複層ガラスにして、床と天井の断熱性は変えずに外壁のグラスウールを、16K90mm厚から24Kの105mmに変えました。これでコストは70万円増になります。
地域は6地域として、間欠空調と連続空調、それぞれの暖冷房費の削減効果を比較しています。間欠空調は各部屋に1台ずつエアコンがあって、室温設定は暖房20℃、冷房27℃で計算しました。等級4でやると18℃以下になる時間が何時間あるか、暖冷房費がそれぞれいくらになるか、精密なシミュレーションを行いました。連続空調で重要なのは、エアコンの台数が減っています。エアコンは2台で十分なので、1、2階に1台ずつ設置する想定で計算すると、間欠空調の等級4と、連続空調のG2で、年間の差は約6万7000円になりました。
連続空調にしても、実は一次エネルギー消費量は増えない。エアコンの台数と効率によって、大幅に減るのです。コスト的にも、結果的には連続空調・エアコン2台のほうが、光熱費が6.7万円安くなるので「建設費が70万円高かったとしても、10年で償却できて快適」という状況になります。
具体的に、初期コストはどれぐらい増えるか。開口部とガラスを変えてプラス48万円。断熱材はプラス15万円。施工はどちらも充填なので、職人の手間は増えないとして、開口部と断熱材の合計で材工63万円、税込みで70万円アップとなります。
G2でも、間欠空調だと室温が低くなるけど、連続空調になるとエネルギーも減ります。間欠空調だと、G2でも18℃未満の時間が45%、断熱等級4も18℃未満の時間がかなり増えます。熱負荷は減少するし絶対量も小さくなります。結局、間欠空調だとなかなか元がとれません。詳しいことは後ほど、前先生に解説していただきます。冬の寒い日でも、連続空調ならどちらも、室温が健康範囲になります。G2だと18℃未満になる時間はゼロ。等級4でも、18℃未満の時間は若干残りますが、連続空調なのでそれなりに快適な状態にはなっています。
ただ、断熱性が高ければ一次エネルギー消費量も減ってくるし、電気代も減ります。暖冷房の負荷の差が、お金にして年で6.7万円。連続空調なら、断熱の強化による、70万円のコストアップは10年間で償却可能というところですね。これは比較の問題なのですが、実際は、エアコンの数が等級4では5台、G2では2台という違いがあります。エアコン1台10万円だとすると、もはや40万円の差でしかなくなるのではないでしょうか―ややこしくなるので黙っていますけど。
また、違う考え方もできます。40万円の差なら、お施主さんは「40万円は払えないよ」と言えば、設計者としては「建物全体をちょっと小さくしませんか」と相談します。一坪くらい小さくしたって、工夫すれば何とかなるでしょう。だから、住まい方も含めて工夫しながら、連続空調ができるようにもっていくことで、一次エネルギー消費量と電気代が共に減って、すぐに元が取れるという話です。だから消費者にとっては不利益ではありません。
また、エコワークスさんの実績とも比較してみましたが、結果はほとんど一緒。小山社長らがつくっているG2クラスの建物とも、エネルギー消費量は変わらなかったので、シミュレーションの正しさが裏付けられたし、一般論として、G2レベルの断熱をするとこういうことが起こると言えるのではないかなと思います。
太陽光も元は取れる
竹内:太陽光パネルについて、平井伸治・鳥取県知事が「FITの買取価格が安くなったから、もとがとれない」っていう話をされていましたが、太陽光発電に詳しい方からすれば、そうではないことはすぐにわかる。基本的には自家消費に向かっていて、送電網を経由しないで済むエネルギーなので、いろいろなことが可能になる。ですから、個人的には太陽光は義務化した方がいいと思っています。ただし、断熱をしないで太陽光を載せるというのは違う。そこははっきりしておかなきゃいけない。
CO2排出量削減目標が46%だと考えると、何かやらないとダメでしょう。どの団体も「載せられない」「壁にパネル設置は無理」などとおっしゃっていましが、少し頭を切り替えたほうがいいかなと思っています。設置コストを、国交省の資料通り30万円/kWかかる前提で、小山さんに発電量や、どのぐらいで元が取れるか試算していただいたのですが、14年、15年、12年といった結果になりました(下表)。
設置コストも、私に言わせれば30万円/kWは高い。実勢価格は20万円/kWぐらいではないか。しかし、30万円だとしてもこれぐらいの時間で元が取れる。20万円とすれば2/3ぐらいの期間になるでしょう。知事が難しいとおっしゃる鳥取県でも、16年で元が取れるそうです。義務化が進めば、さらに太陽光発電の設置コストは安くなります。そうなれば、現状の半分くらいの時期での回収は可能だと思います。
表(下)は、都道府県ごとの発電量を、実績ベースで出しているものです。1kWあたりの電気代が20円代後半だとすると、自家消費すればもっと早く元が取れるんじゃないか。この話にはもっと可能性がありますが、今回は「決して悪いものではないです。元は取れます」という話なので。私たちが考えていたのは、金融的な措置のこと。簡単に言うと、住宅ローンの枠が増えれば太陽光を載せる人は、10年経ったら電気代を払わないで済む、という話だと理解しています。
それから、(太陽光が)発電量のピークカットに寄与するものであること。今後、冬の夜のエネルギーピークが問題になると考えています。今年、巣ごもりの影響で家庭のエアコン使用が大きく増え、電力量がひっ迫したという事実がある。それは、家が寒いから。しかし、連続空調なら(電力消費量の)ピークがなくなる。その意味でも、断熱をしてピークをずらすことは大事だと思います。
太陽光を載せられないところ、伝統的な建物など、さまざまな議論はあります。伝統建築系の人たちと話してみると「僕らはエネルギーを使っていないんだ」とおっしゃいますが、だったらその事実を証明したうえで、伝統的な、開放的な住宅に住んでもらう。プラス、家の近くに太陽光パネルを置くなり、カーボンプライシングのようにお金で解決するなり、違う形で、みんなと同じように努力すればいいと考えます。
違う形で、みんなと同じように努力をしていただければいいのかなと思っていたりします。
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