新築ゼロカーボンへの第一歩は高断熱化
小山:竹内先生、あの時間では物足りなかったでしょうから、今日提出された資料を詳しく説明していただきたいですね。
竹内:今日提出した資料(PDF)は前先生、小山社長と一緒につくったものです。私だけではなく、このチームでやっていることだと理解していただければと思います。
まず、表紙に最も言いたいこととして「断熱性能を上げないとだめだよ」と書きました。太陽光の発電の話もありますけれども、断熱性能が上がるといろいろなものが変わってくるということです。
次が、2050年に脱炭素を目指す話です。パリ協定を前提とした(日本)社会全体で26%、家庭・業務部門が40%の削減目標が、先日の気候サミットで46%になったら(家庭・業務部門の目標は)いったいいくつになるのか、意識として持っていなければいけないかなと思います。いきなり80%削減って言われても「さあ困ったぞ」なので、今から建つ住宅・建築物を全部、ゼロエネにしないとだめだという勢いではいるんですけど、あまり過激なことを言うと、消費者団体の方にも怒られてしまうかもしれないので。
消費者にとって、断熱の便益はとても大きいのですべき、というスタンスに立ったうえで、各団体の方もこれを見ていらっしゃるなら、とにかく何%削減するのかをそれぞれで考えていただきたいです。
前先生がおっしゃったように、(脱炭素の実現は)非常に難しい前提です。難しすぎて実現できず、日本が先進国ではなくなるかもしれないレベルだ、と私は思っています。実現できなかったら、大変申し訳ないが、日本はダメな国です。2050年、私は後期高齢者ですが、その時には「よかったな」と思いたいのです。それから、次世代にどうつなぐのか。小山さんもそうおっしゃいますが、本当にそうだなって思いますね。
既存の住宅・建築物も含めて、脱炭素を実現するにはまず“新築のゼロカーボン化”が必須なんですよ。これができないのに、全部をゼロカーボンにすることはできない。2050年になる前に、新築の二酸化炭素排出量をゼロしないといけない。ここで初めて改修に応用が利く。本来は、新築も既存も同時にやらなきゃいけないんですけれど、とにかく新築を早く片付けないといけない。新築でゼロにならない、なんて話をしているのではアウトでしょう。
新築のゼロカーボン化は、実は難しくない。HEAT20・G2+αくらいの断熱性に、自然エネルギーをどうやって入れるか、程度の話ですから、検討会でも提言したように、HEAT20・G2が断熱機能の最低基準―個人的には、もう少し上のレベルにしたいのですが―と考えます。
2030年に住宅・建築物の二酸化炭素排出量をゼロにするのが、いい線だと思うんですよ。2030年まであと10年あるわけですから、10年間でゼロを実現できるようにして、義務化することが大事かなって思います。
2010年ごろ、EUが加盟国に対し「とにかく二酸化炭素排出量がゼロになる建物を作りなさい。そのための法律を整備しなさい」と指令を出しました。もちろん、各国とも実行してはいるのですが、ドイツでも答えが出せず、ドイツ国内の環境活動家からは「せっかくドイツがリードしていたのに、ここでダメになった」という声もありました。
しかし、とにかく「10年後にゼロにするぞ」って言ったら、ゼロエネの建物が増え、結果として再生可能エネルギーの比率が大きく上昇しました。例えばドイツには、風車も太陽光パネルもたくさんありますが、省エネルギーによる効果はとても大きい。エネルギー消費が減っているので、再エネのパーセンテージが上がっているというぐらいに、どんどん(再エネの比率が)上昇し、今や45%を超えているんです。デンマークは70%。一方、日本は今、20%前後でうろうろしている。
「できるかできないかはわからないけど、みんなでゼロエネの建物を作ってみよう」っていう話なんです。大変嫌な言い方ですけれども、ゼロエネの建物を作ったことのある人があまりにも少なすぎる。経験すればできるんです。今日、これを聞いていらっしゃる方の中にも、経験がある人もいれば「どうやればできるんだ」と思う人もいるかもしれませんが、10年やれば何とかなるんだと思っていただければ幸いです。
また、現状ではカーボンニュートラルにおけるバイオマスの地位が低い―というか組み入れられていない―ので、「薪を燃やしても二酸化炭素排出量は増えない」という、環境の世界では常識的だとされていることも、意外とみんな知らない。バイオマスも入れないといけないし、ありとあらゆるものを入れたらいいんじゃないでしょうか。
義務化は最低でもG2レベルで
竹内:結局、断熱性能が低いので、日本の建物は今のところ、エネルギー削減につながるレベルに到達していないのです。だから省エネ基準を適合義務化したところで、エネルギー消費は減らないよ、という話なんですね。
ゼロエネルギービルというグローバルスタンダードに則って、世界と同じものを目指す必要がある。今日も、日本のZEBに関する制度が難しいという話がさんざん出ていましたけれど、できるだけシンプルにしていくことも必要でしょう。
ゼロエネルギービルは、つくるエネルギーと減らすエネルギーがイコールにならないといけないのですが、日本(のZEB)はエネルギー削減率が少なすぎると思います。私はパッシブハウスジャパンの理事という立場上、世界的な流れも見ていると、15Wh/m2と、燃費性能がめちゃくちゃいい建物が世の中、特に中国では爆発的に増えているんですよ。中国で国際的なPHI(パッシブハウスインターナショナル)により中国で認定されたものが10万m2あるんですね。認定されていないがそのレベルのものがさらに7万m2あります。その中の半分がオフィスなんですね。オフィスのほうが住宅よりも外皮の比率が少ないので、外皮をちょっと強化するだけでエネルギーが減っていくんですね。この辺に関しては、前さんと若干の意見の相違もありますが、外皮性能をもっと上げるべきだと考えています。
それから、エネルギーの観点では、断熱はピークカットに寄与する。夏の午後や冬の夜など、電気需要がひっ迫してエアコンが動かないリスクを考えると、(電力需要の)ピークをいかに減らすかはとても大事な話。再生可能エネルギーを入れることも大事だけど、断熱とエネルギーの観点からは、こういう話もできるわけです。
(検討会では)基本的に、現行の省エネ基準を義務化するかで議論しています。前回、小山さんから第1回の資料を基にした話がありましたが、一般の建物よりも11万円コストがかかるうえ、温度ムラができてしまうレベルの基準ではなく、HEAT20・G2レベルを目指していくべきではないでしょうか。G2と省エネ基準を比較しましょう。ヒートショックのない暮らしを前提にしないとダメ。建物のゼロエネルギー化に寄与するレベルまで断熱性を上げれば、10年でコストを回収できるということがわかりました。いくらコストが増えるかとのバランスなのですが、それはおいおいお話をしましょう。
私の意見は2030年にゼロエネ義務化ですから、30年にHEAT20・G2の義務化では遅い。あと5年後に義務化すべく、速やかに周知をしてはどうですかという提案です。HEAT20・G2をつくれるようになれば、再生可能エネルギーを入れれば、かなりゼロエネに近づくんですよ。もうちょっと断熱して、再エネももう少し増やさないといけませんが、そんな感じです。
今は、新築戸建て住宅の数が多いからその話題が多いけれど、実は戸建て住宅、共同住宅、非住宅・公共建築物と、いろいろんなビルディングタイプがある中で、2030年に新築住宅の全てをZEHにすることは、私見ではありますが、積み増しというとこうなるだろう、という話です。これを広く議論していかないといけませんから、新築住宅の基準だけではありません。
今日も、何度も話題に上りましたが、公共建築物を何とかゼロエネルギーにしないと「民間ができるはずないじゃないか」という話になってしまうので、ここは相当てこ入れが必要。資料でもピンク色で強調しました。また、住宅では年間の暖冷房需要を、コンピューターで計算している方も多いと思いますが、非住宅を手掛けるゼネコンや、大規模な設計事務所では暖冷房需要を計算していない。だから外皮とエネルギー消費の関連がわからない。
ゼネコン・大規模事務所の設備の人は「このエアコンを入れたらこの暖冷房はできるか」や「暖冷房はちゃんと聞くのか」を考えている程度で、空調のエンジンを小さくするような工夫も、設備とはほとんど連動していないのが現状です。本来は、建築自体にエネルギーを減らす方策を施して、設備を小さくするともっと減らせるはずなのに……。そんなことはないとも言われますが、全面ガラス張りのビルがいっぱい建っている時点で全然考えてないじゃないかと思います。タワーマンションの西側の角なんて、夏、地獄のような暑さになるという話もありますが、そういうことをちゃんと考えたらどうでしょうか。
また、これから新築する公共建築物は、話を一度止めて、ちゃんと考えませんか。なぜかというと、2050年の時点で、既にできてしまっている建物を改修するのは難しいので、まずZEBの義務化を閣議決定して法制化すれば(ZEB化が)進むのではないでしょうか。
たいていの場合(ZEBにするには)予算が足りないと言われます。つまり、やりたくないということですね。今日の検討会で、(ZEB化するには)費用が2割増しということがわかったので、増えた2割を、財政的な支援で賄うか、建物を2割小さくすれば建つわけですよ。
あともうひとつ、よく言われるのが「期間が足りない」。補助金を使っているから、この期間内にやらないといけない、だからもう計算はできない、という。補助金を延長してもらって、1回立ち止まってZEB化の対応をしましょう、と、全国で新築を建てている設計事務所やゼネコンに伝えたい。2050年のために色々と考えないといけない時期だとすると、公共建築物が1年、2年遅れたとしても、少しこういうことを議論をしながらやっていくべきかと思います。
地球の環境問題に取り組む市民団体の人から「ZEB Readyって、断熱材が20mmしか入っていないんですけれど、いいんですか?」って言われました。一般の人がおかしいと思っていることは、やはりおかしいんですよ。建築業界が変わらないといけないと思っています。こんな話は、委員会では時間がないので、ここでさせていただきました。
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