住宅のつくり手は技術で考えよう
前:非住宅はどうするのかは、竹内先生が答えていますが、私もZEBには興味があります。本音で話せば、非住宅分野の研究者は住宅を軽く見るのですが、いずれは在宅勤務でオフィスなんていらなくなるでしょう。
竹内:確かにそう思いますよね。新型コロナによって、働き方もそうですが、オフィスに行ってみんなで仕事をすることが少なくなっている世の中が、2050年にはどうなるのかと考えてみれば、今のビルディングタイプ自体が存在しているのかもわかりませんね。
前:どう考えても、住宅がなくなることはありえない。オフィスだとしても、小さめのスケールのビルなら、もっとパッシブ的な使い方ができるかもしれない。巨大なビルはどんなに外皮を強化したって、内部発熱が大きいから、ビルのあり方も変わるでしょう。
竹内:住宅は小さいから外皮の割合が大きい、だから断熱性では不利だと言われていましたが、実は有利。もっと断熱をすればいろいろと変わるのに。
前:やろうと思えば簡単な話ですけどね。住宅は早期に蹴りをつけたい。技術論は既に確率されているし、“神話”も数字を見せれば、検討会の委員の方々も「誤解だったんだ」と素直に受け入れてくださっている。
後は、さっきから言っているように、国民のためにやっていく。法律から考えても、国民の福祉はとても大きい。そのために、作れない業者の権利をどう考えるのか。自由はもちろん大事である一方、公共の福祉の前では自由は制約されるのもやむを得ないわけですから。
竹内:学ぶ権利と学ぶ義務、どちらもあると思うんですよ。G2は「さほど難しくない、みんなができるだろう」というラインだと考えていて、G2がベストだと言うつもりもないのですが、それを超えるとになると大変なところがたくさん出てきます、という話でしょう。それは6地域だけの話ではない。
前:もちろんそうです。技術的には、つくり手はこのスケールで議論していれば十分。
委員の諸富(徹・京都大学大学院教授)先生が、地域循環のお話をされていました。家を建てたり、竹内先生が言ったようにバイオマスなども利用しながら、地域の中でお金が回らないと地域が衰退するんです。経済学の研究者も、このままではいけないと考えている。今までの、中央集権的な行政やエネルギー供給システム、産業も含めて、どうだったのかが問われている。
委員の方々も、それぞれに問題意識を持たれ、情報共有していると思いますので、ぜひ竹内先生と、他の委員の先生がコミュニケーションをとる場があればいいですね。
分譲住宅の抵抗をどうかわす?
三浦:最後に1点、お二人にお聞きしたいのが、分譲住宅のことです。今日、検討会で最も抵抗感が大きかったのが、分譲系の団体だったように思います。
本当は地域、地方、町全体でエネルギーをどう使うか、オフグリッドなども含めて考えていくときに、分譲住宅が壁として立ちはだかるのでは、という感想を持ちました。分譲事業者・分譲住宅に対し、脱炭素や性能の基準をどう適用するのか。竹内先生、何か感想やご意見は。
竹内:(省エネ基準とG2の建設コストの)差が70万円で、しかも10年で元が取れる。金融措置で、住宅ローンの枠が増えるのなら、高い値段で販売してもローンが組めるわけです。トータルのベネフィットで考えれば、たとえ分譲だって、ただ安いもの、元が取れるいいものを比べたら、いい方が売れるでしょう。それほど価格による差は生まれないのではないでしょうか。
ただ、私たちが想定しないぐらい安い価格で販売している業者さんがいるかもしれない。そういう存在を、少しずつ変えていくのが義務化の意味なのではないでしょうか。その先には、前先生がおっしゃたようなナショナルミニマムがどこにあるのか、寒い家を供給していていいのか、という話があると思います。寒かろう、悪かろう、でも貧乏だからしょうがないだろう、はひどい。今はちゃんと技術があるんだから。
住まい手も、「一部屋少なくてもいい」が許せるならそういうものを選んでいく。分譲系の事業者は「部屋の数は多いほどいい」と、3~4LDKを良しとしがちなんですが、実はそこまで広くなくても、いい空間をつくって売れたからよかった、という意見もよくあるんですよ。それと同じですよ。買う側とつくる側がかみ合えば、うまくいくのではと思います。
三浦:なるほど。建売を含め、アンダー1000万円の戦いが起きている中で「ちょっと勘弁してくれ」という本音が見え隠れしたのだろうと思いますが、竹内先生のご意見を伺って、解決の糸口が見えてきたように思います。前先生はいかがですか。
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