「脱炭素住宅あり方検討会」公開取材第2弾
4月28日の「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」第2回では、住宅関連9団体から、各団体の取組状況や省エネ基準適合義務化、再エネ導入拡大における課題などについて、ヒアリングが行われた。適合義務化にはおおむね好意的だった一方、太陽光発電の拡大には難色を示す団体も少なくなかった。
新建ハウジングでは、第1回に引き続き竹内昌義さん(東北芸術工科大学教授、同検討会委員)、前真之さん(東京大学大学院教授)、小山貴史さん(エコワークス社長)への公開取材を行い、4月22日に菅義偉総理が表明した「2030年の温暖化ガス削減目標46%」も踏まえ、改めて業界の課題や望ましい施策の案を議論した。
【進行=編集部 荒井隆大】
※公開取材第1弾の全文掲載はこちら。
竹内昌義(たけうち・まさよし)
建築家、東北芸術工科大学教授(建築・環境デザイン学科長)、エネルギーまちづくり社代表取締役、『みかんぐみ』共同代表、PassivehouseJAPAN理事。専門は建築デザインとエネルギー 。作品に山形エコハウス、HOUSE-M(2013年JIA環境建築大賞受賞)など
前真之(まえ・まさゆき)
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻科准教授。博士(工学)。住宅のエネルギー全般を研究テーマとし、健康・快適な暮らしを太陽光エネルギーで実現するエコハウスの実現のための要素技術と設計手法の開発に取り組む
小山貴史(おやま・たかし)
エコワークス株式会社代表取締役社長。九州でエコハウス事業を展開。経済産業省「ZEHロードマップ検討委員会」委員、一般社団法人ZEH推進協議会代表理事等を歴任。共著に「これからの工務店経営とSDGs」
三浦 祐成(みうら・ゆうせい)
新建新聞社代表取締役社長。新建ハウジング発行人。1972年山形県生まれ、京都育ち。信州大学卒業後、新建新聞社に入社。新建ハウジング編集長を経て現職
「2030年に46%削減」は可能なのか?
――竹内先生、まずはお疲れさまでした。たった今戻られたそうですが。
竹内:ちょっと移動時間を読み違えていまして、ギリギリでした。ごめんなさい。
――まず、前回小山社長からお話がありましたが、4月22日、菅総理が、2030年の温暖化ガス削減目標を、46%に引き上げると発表しました。従来の26%から大幅に引き上げられましたが、住宅に対してどこまで影響があるのか。ご意見をお聞かせください。
小山:NDC(国が決定する貢献)の考えに基づき、日本でも温暖化ガス削減目標の値が議論されています。もともと、2030年に26%削減だった目標を、4月22日、気候サミットの直前に菅総理が、46%への引き上げると発表をしたわけですね。
わずか9年後の目標が倍に近い数値になりましたが、伝聞で得た情報と報道による私の理解―間違っていたら申し訳ないけれど―では、もともと経産省は39%にしようと考えていたところ、最終的な政治決着としてプラス7%の46%になった。その7%を積み上げるための手段が、太陽光発電または風力発電の徹底的な普及、省エネの徹底、そして粗鋼生産の縮小の3つです。住宅用の太陽光発電と住宅・建築物の省エネも、その中に含まれます。
菅総理も「すべての住宅に太陽光を載せる」というような発言をされた。小泉環境大臣だけではなく総理大臣も「すべての住宅の太陽光発電を」と表現したことは、政府レベルで、プラス7%を積み上げるために、住宅・建築物の省エネ、あとは太陽光発電の搭載が議論されているのでしょう。
アメリカの目標は50数%ですし、国際的に(日本の目標は)野心的な目標だとは、とてもではないが評価されていない。アメリカの追っかけみたいな政策の公表に過ぎないと思います。とはいえ現時点では、46%まで引き上がったことは一定の評価がなされるでしょう。
ただ、科学の知見では(2050年カーボンニュートラルの実現には削減量)62%は必要だと言われています。これは、2050年にゼロにすればいいわけではなくて、炭素予算と言って、二酸化炭素の総排出量の累積量を課題とする考え方からすると、1.5℃のためには62%が削減が必要だと言われています。
――ありがとうございます。次は竹内先生、46%の目標をどう考えますか。
竹内:昨日、NHKの「時事公論」を見ていたら「46%にしないと(温暖化ガスの排出量が)ゼロに向かっていかないんだ」という話をしていて。39%の経産省と、50%にしたい環境省の綱引きだったわけですよね。外圧がさらにかかったら50%と言うかもしれない、という話は菅総理が懐に持っていた。でも言われなかったから46%で行きましょう、と。
建築の世界の話をすると、26%目標のとき、住宅・建築物、つまり家庭部門と業務部門の削減目標は既に40%でした。新築だけではなくて既存も含めて40%だという話をしていたので、目標が倍だと(住宅・建築物の削減率は)80%になると思っています。
今日の検討会では、特にそこに対する話はないのが前提でしたが、住宅・建築物の削減率が、26%から46%になった後にどうなるのか、大きな興味があったので、事前の質問として各業界団体に「引き上げられたらどうするんですか?」と問いかけ、答えていただいた。
――「竹内委員からの質問」はそういうことだったんですね。
竹内:今日の検討会では、ヒアリング対象の各団体は、基本的には(適合義務化に)前向き。周知の問題、段階的な問題、手続きの問題、いろいろとありましたが、基本的には「そんなことできないよ」っていう話ではなくて「なんとか向かっていこうよ。いろいろな問題はあるけど」という話だったので、とても生産的な会話ができたのではないかと思いました。
――前先生が再エネタスクフォースで提示されたロードマップを、仮に46%目標に応じて変えるとすると、どこがどのように変わるでしょうか。
前:もともと、2030年には日本全体で26%、そして住宅・建築物は、先ほど竹内さんがおっしゃったようにストックも含め40%削減する必要があった。2020年の省エネ基準適合義務化を見送った状況で、そもそも2030年に住宅・建築物全体で40%の削減が可能なあてがあったのでしょうか。
さらに、今回の大幅な積み増しによって、日本全体では46%削減。住宅に関しては割り増しが非常に高かったですよね、産業界が“やりたくない”ばかりでしょうから。かつての2030年目標ですら達成できるのか不透明だったのに、こんなに大きな積み増しがあってまともなバックキャスティングが機能するのか、正直に言って不安ですよ。建設的に、バックキャスティングをして達成できる目標なのか。私には「ほぼ無理」っていう話になってきているんじゃないか、と思えるのが怖い。
今日の議論だと、竹内先生以外は99%フォアキャスティングの、とりあえず、2020年に予定していた義務化は可能ですという程度で、一応ZEHもちょっとはやる、と。かつての目標のもとで本来やらなきゃいけなかったことを「今だったらできます」。でも、計算ができないとか、コストが、とか言っている。それはちょっとどうなのか……。
竹内:そうだね。ただ、私は蒸し返してもしょうがないとも思う。
今までは、本当にダメだったかもしれないが、今日は「義務化だけすればいい」という業界の人は少なかった。どんどん勝手に、高性能化がに進んでしまった、というのが実際のところ。とても真面目な国民性を改めて感じたし、そういう目標設定をやったら本気になったらちゃんとできる。
そうは言えど“日本は本気になってできるのか?”という議論はいっぱいあるのですが……。再生可能エネルギーの比率の話をすれば、10年前のデンマークと同じくらいのペースで(既存電力を)減らしていかないとダメなんですよね。だから、よほど国民のマインドセットがないとだめかなって思いますね。
でも、無理って言いたくない部分もあって。そのためにも、この公開取材もそうですが、色々なことをやっているんです。
前:むしろ竹内先生がそういうスタンスで発言されるほうがいいと思います。そのほうが住宅生産者も受け入れやすい。
今となっては「自分たちができない」と抵抗して、あまり目立ちたくないっていう雰囲気にはなっているという感じはしますけど……甘いのかもしれない。そこは小山さんに聞いてみたい。
業界には未来への視線が欠けている
――話題が、今日の検討会の内容に移り始めているので、ここで話題を変えましょう。前先生は、前回の公開取材で、生活者の不利益を指摘する意見を心配されていましたが、今回はそこまでの意見はなかったように感じています。全体的に、適合義務化はできる、しても良いという方向に向かっていること自体はいいことだと思いますが。
前:表立って義務化できないとは言われる方は、確かに少なかったし、適合義務化によるコスト増で「家が買えない人が出てしまうのはかわいそう」という意見―単に自分たちがやりたくない、理由のすり替え―はあまりなかったかな……雰囲気としてはそう感じました。
だから基本的には(適合義務化は)やる。ただ、その中で解決するべきことはある、という言い方をされていたように、うっすらと感じました。僕は正直、彼らの本音は分からないので、実務者としての小山さんに聞きたいと思います。
――小山社長、今日の検討会はどう感じましたか。Facebookでもコメントを募っていらっしゃっていましたが、反応はどうだったでしょうか。
小山:今日の検討会を見て、私が感じたことは3つ。1つは、既存の業界団体は、フォアキャスティングで考える人たちばかりですから、1団体でもいいから、気候危機問題に取り組んでいる団体にヒアリングして、住宅の省エネ化が脱炭素に必要だというメッセージを引き出しても良かったのではないかということ。
関連して、46%への引き上げの件を、できれば冒頭に解説してほしかった。エネルギー基本計画においても、住宅・建築物はどれだけ削減しなくてはならないのかがいずれ話題になるはずです。検討会でも後日、定量的な(規制の)強化を議論する必要があるとか、気候危機からのバックキャスティングを前提とした団体の設定と進行があったほうが良かったなと思います。
それから2つ目。住宅・建築物の省エネ基準適合義務化は、既定路線みたいな形で検討会が始まったので、当然皆さんはおおむね賛成ということだったのですが、目指すべき姿のあり方についての議論が少なすぎる。今日、竹内先生からはG2グレードの話が出ましたし、住宅生産団体連合会からもZEHの話がありましたけれど、その他の団体は、目指すべき水準をどう考えているのか?2050年からそれぞれ自分たちでバックキャスティングでどう考えてきたのか?未来に対する責任として、コメントしていただきたかった。
3つ目ですが、竹内先生は「暮らし方も2050年に向けて変わっていく」との前提でお話をされていると思うのですが、部分間欠空調は、恐らく2050年ごろには「昔、そんなこともあったよね」と思われるようになるでしょうから、竹内先生以外の方にも、未来の暮らし方への関心を持っていただければいいかなと思います。
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